追撃者(2014)
ある富豪から砂漠でのハンティングのガイドを依頼された主人公。しかし事故が発生し、予期せぬ逃走劇が始まる・・・・
・・・・DVDで鑑賞。マイケル・ダグラスが富豪役で、異常な人格で、しかも抜け目ない個性、残虐な性格の人物をリアルに演じていた。彼も70才を過ぎ、第一線のスター俳優ではなくなってきたが、かってはミスター・ハリウッド的な存在であり、今回も充分な存在感を感じた。「ウォール街 」のゲッコー氏に近いイメージの役柄だった。
主役はジェレミー・アーヴァインという俳優だが、あまり個性を感じなかった。演出のせいかも知れない。主人公が悩みを抱えているらしいことは分かったが、その表現はウジウジした印象につながっただけで、観客が同情するような描き方ではなかった。中心は悪役のマイケル・ダグラスということで、あえてそうしたのだろうか?
この作品は家族で楽しめる内容ではない。残虐性を好む人ならワクワクするかも知れないが、家族団欒の場にふさわしい内容とは言えず、基本的に子供向きの内容でもない。恋人と観る内容とも思えない。恋人達が協力して敵に立ち向かう内容ではあったが、それが中心とは言えない。
主人公が追い詰められる岩場は、普通に考えると人を追い込むのは難しいと思う。サーチライトで光を当て続けていると、直ぐにバッテリーがあがりそうだし、影を利用して逃げようと思えば、簡単に死角から逃げられるように思える。断崖絶壁で、出口がひとつといった他の場所に設定すべきだった。
富豪のキャラクターだが、おそらく欧米の支配的な富裕層のイメージを膨らませて作られたのではないかと感じた。あの人物はただのサイコキラーではなく、要するに富の不均衡、格差の問題を意識しながら演出されていたように思う。確かとは言えないが、過去のマイケル・ダグラスの活動をみる限り、おそらく狙いはそこではないか?
どこの国でも、金持ちに対しては嫌悪感が生まれる。昔からそうだろう。昨今の特徴は、何か発明して大きな製造業を起こす松下幸之助タイプの金持ちではなく、ネット時代の通信販売や、株取引で巨万の富を得る非生産的な金持ちが多いことではないか?生産的でないと、敬意が生まれにくい。
韓国の朴前大統領に対して韓国国民が怒ったのは、取り入った女事業家の一族が、ワイロめいた金を得て、汗を流さずに優雅な暮らしをしていた点だと考える。不平等は、ある程度は仕方ない面もあると思うが、極端になると激しい嫌悪感につながるものだ。
さて、映画の実業家氏。主人公を買収し違法な猟を始めた点、事件のもみ消しを狙った点、中国に自分の会社を売ろうとしている点、高価な武器や特殊な車を所有する点、いかにも金で事を決する富裕層の、良識から外れた高慢ちきな生き方を示しているし、セリフもそこを強調している。
実際に、富豪がこんな危険なことをやるかどうかは分からない。普通は専門家にまず連絡し、事件の隠蔽を画策するのではないだろうか?事故の可能性が低い地域で、充分な準備をして、安全対策のために部下を同行させるだろう。一人では思わぬ危険に襲われるかも知れない。富裕層は、安全には金をかけると思う。
あくまで事件だったとすれば、少なくとも重い実刑からは免れるかも知れない。良い弁護士を手配することに力を注いだほうが、最悪の事態を避ける意味では利口だと思う。その点から考えると、この作品の富豪は少し無茶すぎた。もう少しアクドイ、ずる賢くて小心者の、嫌らしいキャラクターだったら、もっと現実的な魅力ある作品が出来たかも知れない。
極端な貧富の差が問題となった社会でも、おそらく戦争、紛争が起これば、差が気にならなくなる可能性がある。これは歴史的な事実ではないか?とても気になることだが、皆の感情が外国に向かうと、国内の問題が吹き飛んでしまう傾向があり、富裕層がそこにつけ込むことが懸念される。
国内が戦場になると、さすがに金持ち自身も被災し、没落する場合はあるのだが、戦場が国外だと一般的にはさらに大儲けできるし、戦争への貢献で名誉を得ることもありうる。怖い話だが、それが貧富の差の問題の解決方法のひとつ(真の解決じゃないけど)であることは、気にとめておいたほうがよいだろう。