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2019年7月25日

十字軍物語(2018)

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- 塩野七生・新潮文庫 -

2010年頃に発売された書籍の文庫版が出ていたので購読。全4巻で、文字の量は相当あるが、文章が平易なので、あまり時間をかけずに読み終わった。この本が映画化される心配はないのだが、ついでに劇場に登場していただく。 

十字軍に関しては、教科書に書いてあるくらいの知識しかなかった。教科書の記述は味もそっけもない。4回くらいの大きな派遣があり、サラディンとリチャード獅子心王が戦ったことや、少年たちを奴隷に売った事件もあったなどは読んだ記憶があるが、結局は意義の薄い行為だったといった、歴史の中ではささいな、ついでのような事件の扱いだった印象。世界大戦などと比べると、扱いが小さかった。

しかし、今日の中東情勢との関連を考えると、教科書の記述よりもずっと大きな根深い影響をもたらしていたのかも知れないと思う。そもそも、レバノンやヨルダンなどに多くのキリスト教徒がいるのは、もともとのローマ時代の伝統に加えて、十字軍国家の影響もあったのではないか?イスラム支配の中で、キリスト教徒が生き残ったのは、キリスト教の国家がしばらく維持されたからだろう。

そして近年のことを言えば、イスラム国と十字軍国家との共通点が気になる。イスラム国は酷い抑圧を住民に強いて、周辺の国々にも度々攻撃を繰り返し、一般的には滅茶苦茶なテロ集団のように報道されているが、もしかするとイスラムの人々にとっての十字軍は、イスラム国なみのテロ集団だったのではないか? 宗教の違う連中が突然やって来て、税金を取って居座ったはずだ。イスラエルに対するイスラム圏からの感覚も、似たようなものかも知れない。

おそらく宗教的な理由よりも、領土を確保したいとする欲求のほうが、騎士たちが軍に参加した本当の理由だと思う。当時の事だから、住民を従わせるのは武力によっただろう。何かトラブルがあれば、平気で住民を殺したはず。その意味で十字軍国家の意義は、今日的にも大いにあるはずだ。どんな行為を働いていたのか、住民との関係の記載が欲しい。  

でもイスラム系の住民に対する十字軍の行為は、この本にはあまり書かれていなかった。もともとの記録が少ないのかも知れない。都合の悪い略奪行為は、記録を残さないはずだ。税金の取り方や、財政の記録などがあれば、住民が置かれた状況も分かるだろうが、記録は戦争で失われているのだろうか? ちゃんと国家として成立し、エジプト方面に遠征などした時期もあったのだから、産業があって税金もとられ、蓄えもあったに違いない。略奪ばかりで数十年間も国家が維持できたはずはない。そういった国家の実態が、この本では分からなかった。

塩野氏の著作の欠点と言えるかも知れない。全体像や個人の性格の描写などは味があるが、数値に関しては記載が少ない。したがって雰囲気は分かっても、実態は不明となる。おそらく記録自体が少ないから仕方ないのだろうが、数値に関しては本当の歴史書の記述を探すしかない。

 

 

 

 

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