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2018年8月19日

忘れられた巨人(2015)

The_buried_giant          

 

- 早川書房 -        

 

旅する老夫婦は、人々の記憶を奪うという龍を退治に向かう剣士、老騎士らと同行する。中世のイングランドを舞台にした壮大な物語。文庫本を購読。   


この物語は、たいへんな奥の深さを感じさせる。中世の時代を舞台にしたことで、物語に重厚感、深遠な雰囲気が生まれ、また老夫婦が互いに相手を思いやる会話が、話をおごそかで美しい方向に導いていたようだ。この物語は、たしかにノーベル賞クラスの高いレベルを感じさせる。 


テーマは現代に通じるものがある。不寛容、世代を越えた根深い敵意が、どうやら「巨人」を意味していると感じる。この作品が発表された頃は、不寛容に基づく移民問題や民族対立、宗教がらみのテロ、EUからの独立など、巨人の覚醒をイメージさせる問題が次々と顕在化していた時期だ。いずれも巨人というにふさわしい力があり、退治するのが困難に思えるものばかり。今の時代を文学で表現しようとするなら、この物語で儲けられた設定は、実に適切なものだったと思う。 


不寛容は、時代を超えて存在してきたと思われる。サクセン人とケルト人が対立していた時代なら、おそらく残虐な殺し合いが相互に繰り返されるのも日常のことだったろう。その前、ローマ人たちが侵入してきた頃も、それ以前も、部族や民族同士が戦い、集落ごとの皆殺しも頻繁に行われていたはず。戦うものも逃げるものも、子供も大人も関係なく、力の赴くまま殺されていたはず。そんな時代から、第二次大戦を契機に、甚大な被害の反省に立って、協定によって対立を調整しようという時代にようやくなれたような気がしていたが、どうやらそうではなかったようだ。 


それが当然なのかも知れない。古より最近に至るまで、不寛容な時代ばかりだったので、いきなり寛容に満ちた時代が来るなど、幻想と考えたほうが良い。魔法でもない限り、恨みを簡単に忘れてくれるはずがないと考えたほうが自然だ。 


対立を煽る人物に対して、劇場主は「不寛容の時代に戻り、殺し合いを繰り返したいのか?」と問うてみたいが、おそらく上手に反論されるだけだろう。「過去の残虐行為を正当化するつもりか?」「誤った歴史観や宗教観を反省していない!」・・・言い方はたくさんある。


論点が噛み合わないように、自分の主張を続ける方法はいくらでもある。こちらから反論して、相手が納得することはないだろう。納得してしまったら、その人間の存在意義が薄れるからだ。強硬に、声高に相手を糾弾し、相手の言い分を認めない姿勢を続けると、それに共感する人間が必ず一定数出て来る。支持者が大多数でなくても確実に一定数あれば、選挙制度を上手く利用して大統領になることだって可能だし、政界で大きな勢力を維持することも可能だ。それが様々な国で起こっている。


不寛容さが支持を集める武器となる、そんな時代になってしまっていたのだ。

 

 

 

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