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2018年7月 9日

ケインとアベル(1979)

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- ジェフリー・アーチャー著 -      

 

ポーランドで孤児として生まれたアベルと、ケイン家の跡取りとして銀行家の家系に生まれたケイン。彼らは成長し、やがて対決する運命にあった・・・新潮文庫の文庫本を購入。   


なぜ買ったのかは覚えていないが、作者のアーチャー氏の名前は有名だし、小説らしい小説を読みたかった関係で、たまたま見かけた本を直ぐ買いたくなったのだろう。カズオ・イシグロの作品を読んだ後、文学にやっと目覚めた。それまでは小説を楽しむという感覚がなかったのだが、ここにきて変わっている。    


この作品は映画にはなっていないらしいが、テレビドラマ化はされているそうだ。ただし観たことはない。たしかに大型のTVシリーズとして作るには、良い材料になりそうに思う。様々な人物たちの愛憎が渦巻くからだ。 ポーランドの分割やロシア革命など、激しく動いた時代を舞台にした点もドラマ的だった。   


カインとアベルではなく、ケインとアベルとしたのは、一種のシャレなのかも知れない。対立や不幸な結末を予想させるから、設定には便利と考えたのだろう。彼らが兄弟だったわけではないし、聖書のような殺し合いにまでは発展していなかった。ケインに神様からの印が付いたりするわけでもない。でも、少しそれを連想させるためだろうか、軽い奇形は生まれつきあり、カインの神の刻印を意識していたに違いない。抜き差しならぬ対立は、物語を面白くしていた。いかにもテレビに向く設定だった。    


でも、小説を読んで思ったのだが、アベルとケインの個性は必ずしも際立って感じられるとは言えないようだ。二人とも似たような個性の、有能な事業家、銀行家という印象。たとえばケインは冷徹、非人間的な個性かというと、極めて人間的な面も多い。それなりに悲しい経験も続いているので、裕福なお坊ちゃんではない。アベルのほうは明らかに過酷な運命をたどっているが、途中から急に幸運に恵まれて、少々出来過ぎの人生のようにも感じる。   


ケインが特に執念深いとか、手段を選ばないとかいった強烈さも感じられない。普通、思いがけない成功をおさめた人間は寛大になる傾向がある。ありえないほど出世したケインのような人物が、恩人の敵とはいえ、アベルの破滅を狙うだろうか? 設定を変えたほうが良かっただろう。    


アベルが復讐を心に決めるまでの経緯は、解説はされていたものの、唐突にそうなったように感じた。何度かの経緯が必要だったのだろう。翻訳された文章のせいかもしれないが、ストーリーだけをとっても、必然性が表現できていたとは感じない。本格小説ならば、もっと違った表現があったのではないかと思う。    


必然性を感じさせるためには、おそらくアベルを認めたテキサスの富豪は、アベルがまだ社会の底辺にいる頃に出合い、家族ぐるみで彼を支援してくれた大恩人であり、娘とも良い仲でなければならない。結婚を前提にしていたのが銀行のせいで破談になり、恩人家族は全員破滅といった極端な設定が必要だと思う。殺意を覚えるほどの対立が、この作品では設定しきれていなかったと思う。    


米国の銀行の頭取は、遺言などで決まるものなのだろうか? 資産家一族が代々銀行を運営するという話は、欧米では珍しくなくても日本では考えにくい。日本でも取締役会に親子で参加する家族はいるだろうが、遺言に従って急に外部の人間を連れて来ても、役員の了承を得るなどまずありえないだろう。いかな欧米の話とは言え、劇的な展開にしようとして無理をしたのではないか? アーチャー氏は有名作家だが、本当の小説家ではなく政治家、事業家が本業だと思う。特異な経験で本を売ったが、細かい設定に関しては、本職ではない印象を受けた。




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