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2018年6月12日

夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語(2009)

Nocturnes         

 

- 早川書房 カズオ・イシグロ著、土屋政雄 訳 -     

 

ミュージシャン達を中心に、男女の物語と人々の出会いを描いた短編集。いずれも主に夜と音楽が関係しているので、夜想曲集とタイトルがついている。うち一遍はタイトルが夜想曲。 

 

イシグロがノーベル賞を取ったから、彼の作品を購読している。有名な作家ではあったが、賞を取らなかったら読まなかっただろう。おかげでだが、文学体験ができる。劇場主はこれまで、小説を読んで楽しむというより、常識を得ないと遅れるという焦りから読書していた気がする。教養第一という呪縛があった。イシグロ作品は、楽しみを味わえる。 

この短編集は、いずれも味わいのある話ばかりで構成されていて、余韻が残る作品集だ。でも、イシグロが特に短編が得意とは言えないようだ。よくできた良い話ではあっても、際立つ名作とまでは感じない。オー・ヘンリーのほうが、より上手いと思う。尻切れトンボじゃないかと感じる部分もあり、もう少し長めに作っても良かったような気がした。

 

映画に向ているような印象は受けた。音楽が有効に使えそうだし、老いたミュージシャンが主役の、味わいあるオムニバス作品が作れそうな題材と思う。 

 

イシグロは自身も音楽への造詣が深いのだろうか? いろんな作品に音楽がらみの話が出て来て、それらが作品のイメージ作りに貢献しているように思う。音楽は優雅なイメージ、読者それぞれの淡い思い出など、感覚に訴えさせる効果がある。それを上手く使っているようだ。誰でもできるものではない。使い方を間違えたら、「この曲を、この場面で使うかねえ・・・」と、かえって評価を下げることもありうる。センスは必要だろう。

 

日本でなら、たとえばサザンオールスターズの曲は、若者が恋をする場面で使うには便利だと思う。でも、世代を限られる面はある。もう今の若い人達には時代が違うというイメージが浮かぶこともあると思うので、今を舞台にする小説の中では使いにくい。70~90年代くらいに限定された話なら使える。ジャズの名曲の場合は、せいぜい60年代までくらいが限界だろうか? 古き善き時代の恋を語る場合にだけ使えると思う。

 

ヒップポップ系の曲が、今後小説に使われる時代は来るのだろうか? 今の時点ではイメージできない。基本として小説に使われる曲はスローテンポで、優雅さ、あるいは悲しさをイメージさせるものでないと、かえって雰囲気を壊してしまうように思う。アップテンポな曲では、いかに名曲で皆がイメージを作りやすいとしても、小説の質を下げることになるだけではないだろうか?  

 

まさかジャニーズ系、韓流ダンス系の曲が小説に登場して、悲しい別れを思い出す時代が来るとは思えない。バラード調の曲は今でもたくさん作られているから、曲がなくて困るような事態にはならないとは思うが、違う世代の人間が読んでもピンと来ない時期が来る可能性はある。だから、この作品集も100年後には通用しなくなるかもしれない。  

 

 

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