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2018年5月25日

素顔の西郷隆盛(2018)

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- 礒田道史著・新潮新書 -

 

今年の大河ドラマで西郷どんが放送される関係か、様々な西郷本が出ている。人気歴史家である磯田氏も新書を出していたので購読した。 

 

西郷に関する本は非常に多い。過去に何冊か読んだことがある。西郷は間違いなく日本史の中でも稀有な人気を持つ英雄であり、多くの人から尊敬され、悪い印象を持つ人は滅多にいない珍しい存在だと思う。他の有名人では、悪い面も必ずある。徳川家康や織田信長だと陰険な部分、残忍な部分を感じて嫌う人も多いはずだ。西郷は彼らとは違う。

 

西郷の凄いところは、出世欲、金銭欲を感じさせないところだろう。権力を捨てて国家の中枢から離れている点が、広く評価されていると思う。偉人は多いが、金や権力、名誉欲、支配欲の亡者がたまたま成功しただけの人がほとんどだと思う。西郷が何を基準に自分の道を選んだのか、常人ではなかなか分からない。この本を読んでもよく分からなかった。

 

もしかすると、西郷は自分の人生訓として名誉や金銭欲を捨てることを目指し、それを実行することでの満足に欲を持ったのではないかと、少し感じた。それよりも高尚な、何かの義務感、やむにやまれぬ動機があってあのように行動したのかも知れないが、いずれにせよ一般的な常識を外れた判断があったようだ。

 

「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は始末に困る・・・」という彼の言葉があるそうだが、確かにそんな人間は扱いにくい。弱みを見つけて懐柔することができないし、あら捜しして批判することも簡単ではない。そんな人物を目指すと、みずからの行動は制限され、やがては政権を去らねばならなかったし、政権と戦わざるを得ない運命にあったのかもしれない。彼の目指した姿、彼の信条こそが彼の最後をもたらしたのかもしれない。 

 

西郷には様々な問題点があると思う。彼の信条は非合理性をはらんでいるので、彼を崇拝する連中が非合理性を当然のことのように思い、無茶な行動をとりかねない。過激化しやすいはずだ。集団の中で誰かが合理的なら良いが、全体が非合理的では破滅する。

 

もともと薩摩藩士には「理を言うな!」という伝統があって、理論に走ることを嫌悪する傾向があったそうだが、西郷の迫力の一部は、そんな伝統から生まれたものもあるように思う。ただ、西郷だから良かった姿勢が、欲まみれのエセ西郷によって、妙な施策に持ち込まれてしまうと困ったことになる。旧日本軍の上層部にも伝統的に薩摩藩士の子弟がたくさんいたはずで、薩摩藩の伝統を継いでいたとすると、やはり無茶な作戦に走りやすい。それこそが敗戦の主因なのかもしれない。  

 

むしろ欲深き人物に合理的な施策をとってもらったほうが、無茶が少なくなる。玉砕するのは怖いので、消極的な作戦が多くなるかもしれないが、全滅するよりはマシだろう。西郷は何をやらかすか分からないし、始めたら途中で止めたりしてくれないないだろう。そこが怖い。

 

 

 

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