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2018年5月 4日

日の名残り(1989)

- 中央公論 -

 

英国の名家に仕えた執事長が主人公。休暇を利用して旅する彼が、過去の出来事に関して想いをはせる物語。カズオ・イシグロのノーベル賞受賞を契機に、単行本を購読。映画化されているらしいが、まだ観ていない。 

 

同じ作者の「私を離さないで」では分からなかったが、この本は確かにノーベル賞級かも知れないと思った。語り口、雰囲気が高尚で、寂寥感や時代の流れに翻弄された人たちの哀れさなどが自然と読み取れる展開など、構想が素晴らしいと思う。小説らしい小説だ。 

 

英国の執事なら、語り口は自然と丁寧なものになるだろう。その語り口が、小説の語り口にそのままなるのだから、小説も当然高尚なものになる。主人公がドライバーだったら、もっと品位が下がっていただろう。それでは誇り高き世代の感情が表現できない。よく考えてあった。英国の文学賞を受賞しているそうだが、本場でそのような評価を受けるのだから、原文でも表現が的確だったのだろう。 

 

翻訳の仕方も良かったのかも知れない。日常会話と英国貴族たちの会話の違いは、よほどなセンスがないと理解できない。その違いをうまく表現できていたと感じる。もちろん、実際に貴族が話す様子を垣間見たことはないのだが、雰囲気としてそんなものではと想像する通りであるから、そう思う。 

 

英国貴族の話は、テレビシリーズの「ダウントン・アビー」で高い視聴率が得られたということから考えても、一般人の興味をそそるものらしい。どこかに一般的な憧れがあり、その繁栄やスキャンダルには注目が集まるようだ。 

 

日本の場合も、有力政治家は二世、三世の人が多い。一種の貴族階級のようだ。でも、まだ財界や学会の著名人の家族が政治家に転身するといった流動性はある。英国では、歴史や制度の違いもあるのだろう、チャーチルのような貴族が政治家をやって、それで成功していた。ただ、交渉の専門家達が相手となって来ると、貴族の能力だけでは対処できない事態も実際に多いのかもしれない。日本のように国力に限界がある国では、人材は底辺からも拾い上げるべきである。二世議員は、基本的には排除すべきと思う。 

 

もはや誇りや精神力だけでは通用しない、情け容赦のない戦いの時代が来ている、そのような諦観が英国にはあるのかもしれない。ただ日本から見れば、英国は依然として有力企業を有し、独立した軍備を持ち、文化面で世界をリードしているように思える。それでも米国や中国、ロシアなど、規模が違う国とでは、対抗する手段に限界があるというものだ。誇りが通用しないのは、国力の規模によるもので当然であり、貴族階級の能力が失われたことを意味するものではない。 

 

運や能力の問題もあると思う。もしもの話だが、ドイツ軍がソ連に侵攻していなかったら、ドイツはそのまま今も欧州に君臨していたかも知れない。米軍が戦争に参入できる要件を満たしていなかったら、戦いは膠着していたはず。そうなると、チャーチルなんぞは妄想狂と批判され、主人公はと言えば屋敷の主人が活躍してしまって、あおりを喰らって忙しい日々を過ごすことになり、過去を回想することもできなかっただろう。  

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