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2018年2月12日

わたしを離さないで(2005)

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Kazuo Ishiguro OBE ハヤカワepi文庫 -

 

カズオ・イシグロ氏の2005年の小説。映画やドラマにもなっているそうだが、まだ見ていない。イシグロ氏がノーベル賞を取ったのを契機に購読。

 

語り口が素晴らしかった。冒頭から献体の話が出てくるのだが、主人公の独白の中でさりげなく語られるので意味が曖昧。でも話が進むにつれて徐々に意味が分かってくる。彼らの運命や、彼らが感じた事々、彼らや彼らに関わる人達の感情が理解できて、共感もできるという仕組みが明確にできていた。

 

ジャズナンバーにタイトルとなった曲があるそうだ。聞いたこともありそうだが、そう認識はしていなかった。曲の雰囲気が小説に反映されるのは良い効果をもたらす。おそらく恋人と別れたくないといった内容の曲だろう。静かさや悲しみを連想させる。これもよく考えてあった。

 

大事な登場人物は男友達のトミー君と女友達になっていくのだが、学校に在籍している段階ではそれほど親密ではないという設定も素晴らしい。実際の学生生活、その後の親交に関する経験がないとなかなか書けない内容だと思う。いかにもありそうな関係。同じクラスにいる間は、他の友人たちの目を気にするせいか親密になれないことが多い。何かの偶然で、その後に再会した時に急に親密になる場合はある。学生時代の出会いや別れは、小説の題材として最適だ。たいていの人は未完成に終わった恋心を思い出して共感するものだと思う。

 

そしてストーリーに深みが生まれる効果もある。成長し、互いに影響しあって育った仲間たちが、運命によって悲しい終末に向かうことが分かると、同情せざるを得ない。よく考えてあった。

 

映画「アイランド」が似たような設定だった。清潔感あふれる巨大施設の中で暮らしているドナー達が、やがて臓器移植のために殺される運命にあるというサスペンス的な設定だった。最初、そのような設定であることが分からないが、提供という言葉が繰り返されて、やがて意味が判明する仕組み。事前の予備知識のあるなしに関わらず、時期は違っても最後には誰でも分かるような仕組み。映画の場合はより劇的に分かり、小説の場合は人によってバラバラなタイミングで分かる、そんなものだろうか。

 

「アイランド」との違いを感じるのは、主人公たちが何の反発もなく運命を受け入れている点。そこは不思議じゃないだろうか?正常な感覚を持つならば、逃げようと考えないほうがおかしい。その点の表現に問題ないのか、そこは気になる。劇場主は気になった。誰か逃れようとした人物が怖い罰を受け、恐怖で従わざるを得ないか、あるいは何かによって洗脳されているような設定がないと、おかしいと思う。

 

いっぽうで、逍遥と定めに従う異常な流れが、気味の悪い社会を表現したと言えるかも知れない。その意図があったのかなかったのか、読んだ限りでは分からなかった。強烈な管理体制によって運命に従っていることを表現できたら、もっと作品のレベルが上がったということはないのだろうか?そこが疑問。

 

 

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