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2017年10月23日

人口と日本経済(2016吉川洋著)

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- 中公新書 - 

 

人口減少は日本経済にとって致命的な害をもたらすと、一般的には考えられ始めている。しかし、イノベーションに成功すれば、それを逃れられると説く本。人口問題が広く認知されるようになり、様々な書物が出る中で、少しスタンスが異なる本。 

 

この本は、昨今増えてきた後ろ向きの結論の本(未来の年表など)よりは本格的な学者らしい内容と思った。著者の学歴や職歴からもそんな気がするが、内容の文章を読んでも、知識の幅広さ、教養の違いを感じさせる。要するにガクが違う。そして文章も美しい。読みやすい書き方で、学者独特のとげとげしさ、冷たい感じがしない。  

 

だが、数は減っても発明や技術開発でしのげるという内容には、斬新さが全くない。劇場主だって子供のころからそう考えていた。どのように、そうするかが問題で、努力と工夫なしには達成できないことだ。本には実現に向けて期待させる根拠が乏しい。アイディアの方向性に関して何も書かれていないに等しいから、子供の期待とレベル的に大きく変わらない。

 

アイディアが次々と浮かぶなら、そりゃあ将来は楽しいだろうが、全部インドあたりから出てくるアイディアかもしれない。我々は金を払って、それを頂くだけの存在かもしれないのだ。そして、インドからもアイディアが枯渇する日が来るかも知れない。そうなると、人口規模や年齢構成が、いかんともしがたい力で、社会の活力を損なわせるかも知れない。少なくとも、将来のことは分からないので、希望だけ持ってれば良いとは思えない。少し御目出度すぎる内容ではないか。   

 

人口の問題は、広く認識するのが遅すぎたと思う。もう引退したであろう学者たちや、官僚、政治家たちには責任がある。人口の問題は、事態が明らかになってから対処しても遅いという性格がある。人が育ち、家庭を持って次の世代を作れるようになるには2030年かかる。したがって常に20~30年早く対処する必要があるはずだ。のんびりしすぎている。対処すべき点は丁寧に対処すべきで、真摯に考えないといけない。選挙目当てで、突然問題を取り上げるのは態度として褒められない。   

 

日本の対処が遅れた理由は、フランスなどと比べ、人口の集約が急激すぎた点があるかも知れない。都会に住む人たちにとって、人口減少は実感のない問題のはずだ。むしろ人口集中のほうが一番の問題だった。田舎人の劇場主は、自分の故郷が著しく衰退する様子を肌で感じてきたから、早く事態を飲み込めた。田舎のほうが、日本の状態をより正確に認識できるようだ。東京に住んでいると、おそらく国の問題を把握するセンスが失われる。その意見が国の方針を引っ張ってしまうと、安易な方向に進む。やがて不平等で不景気な衰退社会が待っているだろう。 

  

グローバリズム、あるいは経済的競争と人口問題には大きな関係があるはずだ。農村を破壊して産業構造を変え、国として経済戦争を生き残ろうとしたため、人口のアンバランス、食糧自給割合の低下、出産育児に関する不都合を生んだ面はある。優先順位を間違ったわけだ。家族の協力体制に代わる、出産育児支援制度と施設を作りながら、バランスよく産業構造を変える必要があった。そうしないと、若者は支援なしでの出産なんて非現実的と感じるだろう。ばーちゃん達が傍にいないと3人目は考えられないというのが自然な成り行きだ。人口問題を、もっと真剣に考えるべきだった。 目先の景気に熱中しすぎたのだろう。 

活気ある生産の場は、どうやら東南アジア方面になりそうだ。国の相対的な地位、市場として価値、重要度に関しては期待薄の状況が続く。そうすると資金は舞い込まない。安全保障の面で言えば、地位の低下は危険度の上昇につながる。 武力のことだけじゃない、経済力や管理能力、対処能力を維持するためには、今の政府が公約しているような内容ではなく、根本の理念からして正しい抜本的な対策が望まれる。  それが抜けていては、せっかくの公約も期待薄となり、子供を増やす気が起きない。本書も、買ってもらうためだけの奇をてらった本に過ぎなくなる。

   

しかし劇場主だって、イノベーションが当面は続くと信じている。技術の進歩は日進月歩だ。近未来には、おそらく自動運転やドローン技術によって「ああ、便利になったもんだ。予想すらしてなかったね。」と言えるような技術革新がきっと来るだろう。ただし、高性能のスマホや完ぺきなドローンが誕生しても、幸せに直結するわけじゃない。技術の質、性格によっては危険性を増し、健康を害し、中毒を生むばかりで生産的とは言えないものもある。スマホにしがみついても、幸せになれるはずはない。

ひょっとして、婚姻や出産に関する法律が、最も効果的で有意義なイノベーション技術なのかもしれない。子供を産みやすくなる体制さえ整えば、その他の問題は乗り越えられる可能性がある。 人口が維持できれば一定の市場、予算規模、生産、景気がついてくる。人口を維持しないで、それを達成し続けるのは、古来から一般的には難しかったようだ。この本の結論は、過去に証明されたものとは言えない。広大な植民地、後進地域を抱えた欧州が偶然成しえた成功を、過度に評価したに過ぎないのかもしれない。

 

 

 

 

 

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