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2017年7月 1日

別離(2011)

Nader_and_simin_a_separation

- Asghar farhadi -

教師の妻と公務員の夫が離婚を申請し、別居する。夫側は親の介護のためにヘルパーを雇ったが、トラブルが発生し、訴訟沙汰になる・・・・

・・・・きわめて現代的な問題、普遍的とも言える現象を扱った作品。大変に説得力のある、優れた映画と思う。

イスラム社会の話のはずなのに、欧米とちっとも変わらない別居、離婚話、そして介護トラブル、訴訟に関する話が展開され、おそらく世界中のほとんどの地域、東アジアでも同じ感覚で鑑賞できる話だと思う。その表現が実に的確にして自然で、高い完成度の作品だった。

認知症の父を演じた俳優は、本物としか思えなかった。よほどな個性派俳優でないと、ああは演じられない。妙にオーバーアクションで演じていない点が素晴らしい。悲しむ少女が、はっきりモノを言わずにただ涙を流す演出も秀逸。基本としてオーバーに演じていないのが素晴らしい。

イラン製の映画だと言う。旧来の発想だと、田舎の集落におけるイラン独特の問題点を描く路線が思い浮かぶだろうが、そこを都会の話にした点が独特。監督の体験とアイディアから作られた作品らしい。この監督、アスガル・ファルハーディー氏の能力は相当なものと思う。ハリウッドの監督より、一段上ではないかとさえ感じる。少なくとも、質が異なる。

離婚や別居を扱った作品で印象深いのは、劇場主の年代では「クレイマー・クレイマー」である。子供とダスティン・ホフマンのやりとりがおかしく、子役が非常にかわいらしかった。訴訟のシーンも、この作品とは異質の雰囲気だったが、緊迫したもので、よくできた作品だった。だが、話としては、この作品のほうがドラマティックかも知れない。

イランはパーレビの時代までは欧米化していたはずで、作品の中でも車が道にあふれ、建物も欧米の都市とあまり変わりない。物語は都会の中に限定された物語である。電化製品などが少し古めに見えるから、多少の流行の違いはあるようだが、古い社会でみられるような大家族で、介護を引き受けるといった社会構造ばかりではないようだ。田舎は違った構造かも知れないが。

介護を引き受ける人間は、経済的に何かの問題を抱えていることが多いのも自然に理解できる。この作品では夫が失業中で、借金問題を抱え、身重なのに仕事をせざるをえないという設定だったが、これは日本でもありうる話のように思う。今は共働きが非常に多いから。

訴訟の形式が面白かった。日本では、狭い部屋に対立する双方の人間が入って、直接申し立てをすることは少ないと思う。刑事か検察官が片方ずつ話を聞いて静かに調査し、互いの食い違いを検証していくといったスタイルだろう。おそらく、イランでは時間的にも予算的にも、そこまで余裕がないということだろうか?

宗教の関わり方については、日本と大きく違っていた。コーランに手を置くという行為の重みが、全く違うようだ。日本でも偽証は嫌悪され、おそらく世界の中でも、その傾向がかなり強い部類と言えるだろうが、それは宗教とは関係なく良心からくるものだ。日本では、宗教や主義がらみの弊害のほうが、より重視されて来たと思う。

そんな違いがあっても同じように偽証はあるものだし、偽証の理由も人情のためだったり家族を守るためであり、思いやりが嘘につながるというドラマ的構図も同じのようだ。実際、転ぶ時に押されて転んだか、メマイで転んだか曖昧なことは多いと思う。自分がどうして転んだのか分からなくなる、そんな場合は、自分の証言に自信を持つことはできない。それが争点になると、悩ましい問題であろう。

また、この作品で気になったのは、祈りのシーンが少なかった点。イスラム圏であり、しかも宗教革命を経た国のはずなのに、敬虔でない人間も多いということだろうか?あるいは監督独自の考え方による表現だろうか?

イランは制裁の解除で、今後は訪れることも可能な国になるかも知れないが、米国の大統領が代わって、どうなるか分からない。今までほとんど情報がなかった。少なくとも、こんな作品を作れる国は、文化的には非常に高いレベルにあるはず。 

 

 

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