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2016年9月 8日

二十日鼠と人間(1992)

Mgm


- 弱者へ -

アメリカ西部で農園労働者として働く二人組は、トラブル続きで逃避行のあげく、ある農場に雇われる。しかし、そこでも新たなトラブルが・・・・

・・・・スタインベックの原作小説の映画化。ゲイリー・シニーズが制作から監督、主演までこなしている。でも、物語の中心となったのは、むしろジョン・マルコヴィッチ演じた知的障害者のレニーだったろう。彼の演じた障害者が見事だったので、作品の質も上がったと思う。

冒頭のシーンもよく考えられていた。貨物車両に乗った主人公の顔が、暗い画面の中から徐々に明らかになる工夫がなされていた。誰のアイディアだろうか?隙間から外の明かりが見えるだけの何でもないシーンなんだが、映画に使えると気づいたセンスが素晴らしい。

原作は読んでいないが、正直者や障害者に対するスタインベック独特の愛情を感じた。ただ、1992年当時、この作品を作る意義、制作の意図についてはよく判らなかった。もしかすると舞台で過去に演じていて、元々映画化したくて、やっと資金が集まったことで実現した企画かも知れない。

したがって、今日的な意味は全く感じない。当時のことを上手く描いていたとは思うが、味わいを感じる名作になったようには感じない。きわめて悲しい物語だけども、訴えかけてくる力に欠けていなかったと感じる。

グローバリズムや、中産階級没落の犠牲者を描くとしたら、今日的な意味は大きいはずだが・・・

子供に向く映画とは感じない。家族で鑑賞してもまずくはないかも知れないが、楽しくはないだろう。恋人と見る分には、悪くない作品のように思う。障害者に限らず、弱者への優しさがテーマになっているから。

知的障害者以外に、黒人労働者もひどい扱いを受けていた。他の白人労働者が嫌がるから、馬小屋で暮らしているという設定だったが、おそらく本当にそんな例が多かったはず。下層階級だから一緒で良かろうとは考えないようだ。

持てる者、持たざる者の差は、アメリカの場合は特に非常に大きいはず。ドラマで出てくる屋敷の中にはお城のようなものも多い。資産のレベルが違う。いっぽうで、貧乏人は底辺で日本人より酷い目にあっている。健康保険の違いが大きい。

今、米国の工業地帯だった地域は長い低迷の中にあると聞く。生産現場は、今日のような経済的ルールにおいては人件費の安い地域に移る傾向が強い。そうでない場合は、海外から移民を募って、国内で生産する手もある。アメリカ型は前者で、後者はドイツが代表的だろうか。米国の労働者は、激しい労働運動で戦ったが、結局は法律をいじられて、生産地が逃げていった印象が強い。

米国の大統領選挙でトランプ氏が意外な活躍を見せているのは、今のような法体系では労働者=かっての米国の力を代表する勢力が没落し、資産家と海外に金が集まるばかりという構図に腹を立てたからではないかと、どこかの評論家が述べていた。「怒りの葡萄」の時代は農民が追い立てられ、60年代以降は工業の労働者の番である。法を変えるしかない・・・つまり大統領の質を変えるしかないと思ったのだろう。

スタインベックが小説の題材にした20世紀初頭は、恐慌もあったので特に景気の変動が激しく、弱者が犠牲となっていくことが多かったという。幼少時の見聞や、宗教的な見地からか、スタインベックは一貫して弱者への温かい視点を持つようになったと思う。

米国では、このような視点の人も多い反面、自助努力を極端に求める人も多いと聞く。自己責任がまず要求され、社会保証が行き渡らない伝統がある。教会などが弱者を救済する運動を行ってはいるはずだが、宗教団体の活動は、ともすれば依存状態に近い関係を作りやすい。宗教の押し売りといったら言葉が悪いが、祈りなさいというだけでも、何らかの強制にはなる。宗教とは離れた活動が、本当は望ましいと感じる。

今後、オバマ政権の次の時代には、社会保障は後退しそうな雰囲気もある。大統領候補はイスタブリッシュへの攻撃で人気を得て、政権を担ったら何かの取り引きがあり、富の分配の方向に政策が向かうか、あるいは権威が失墜するか、今後が予測ができない。弱者に手厚い方向へとは、進まないような気がするのだが・・・

 

 

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