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2015年11月18日

ヨーロッパ覇権史(2015)

- 玉木俊明著、ちくま新書 -

オランダ、スペイン、イギリスなどの覇権の歴史を、主に経済的な面から論じた本。

非常に簡潔で、論点が明快な本だった。よほど頭を整理していないと、このような分野は難解な文章になってしまうと思うので、著者は相当な研鑽を積んでいるのだろう。あるいは逆に、大量の資料から研究した大御所研究家ではないのかも知れない。単純すぎるだけの可能性もある。

劇場主は経済的なことについて本格的に学んだことがないので、学者達の意見を拝聴するしかない。想像に過ぎないわけだが、この本の内容は、本筋に近いように感じた。

いっぽうで、経済以外の問題、ことに貿易以外の要因に関する考察は、この本では排除されており、偏りはあると思われた。フランスやドイツの国力だって凄かったのだから、愛国精神や武力の直接的な影響も、実は覇権の大きな要因ではないかとも感じた。

貿易に限って言えば、本の内容は重要であるが、覇権が持つ個人的意味については、違った面を考えることがある。

例えば英国の植民地になった時代のインド人。一般に多くの人は支配に不満だったろうが、商売で英国との取り引きで裕福になった人物がいれば、英国の覇権はやむを得ないものと認識するように思う。現実を見ろよと・・・・個人によって、覇権の意味合いは違うだろう。

英国にしてやられたオランダ人の中にも、国内の商売で充分に満足していた人はいただろう。英国との貿易で裕福になった富豪もいたはず。覇権が他国に移っても、自分の家族の生活が安定していれば、基本的には関係ない話で、皆が皆、国同士の力関係に熱中していたはずはない。

個人や企業単位ではなく、国単位で営業しないと商売に邪魔が入る事態が繰り返されると、やがて全てが国単位の争いになるだろう。そうやって、ついには壮大な予算をかけ、総力を挙げての戦争に発展した、そんな歴史があったと思う。今は企業がグローバル化したので、少し形態が変わっただけで、必要に応じてトップセールスが行われる状況は変わっていない。

強欲に目がくらんだ人達が過剰に行動した結果、不要な覇権争いを生じたように思う。でも、強欲を抑えこむことは現実的に無理。常軌を逸するほどの欲が、大きな仕事には必須なのだから。強欲は、国内の支配権を得る原動力にもなる。国論を動かして、無茶な戦争に巻き込んで行く。いったん世論が動けば、今の選挙制度では無茶も通る。

そんな飽くなき野望、野心が与えた影響は、この本では語られていなかった。政商の数々、ビクトリア女王やヒトラーの野心などは、影響が大きかったように思う。

財政的な問題、特に戦争の費用をどうやって捻出したかは、他の本でもよく読む。でも、なかなか理解できない。もっと具体的に記述してもらうと、さらに理解がしやすかったかもしれない。

第一次大戦の頃、英国でさえ予算の大半を戦争に支出していたと聞く。その状態を数年間続けて、それでも破綻しないのが不可解。まして敗戦国でさえ存続できているのだから、まったく不思議。財政には様々なカラクリがあるのだろう。もともと欧州は、富の蓄積も凄いものだろう。全容はとても理解しがたい。

そしてまた、心の面についても、少しは考えるべきかと思う。

軍国主義の元で育った人間は、覇道こそ正義と感じるものかも知れない。彼らにとって今日的な意味での倫理の概念は、なくて当然。より攻撃的な発想をする連中が、倫理的な連中を攻撃し、支配してしまう傾向がある。

欧州の民族移動の時代や、中国に遊牧民族がやってきた場合は、蛮族のほうが躊躇がない。強欲に満ち、略奪を仕事と考える精神が、覇権の形成には不可欠と思う。奴隷貿易だって、従事した連中には当然のことで、倫理的悩みは薄かったのだろう。覇権に命を賭けるという発想が劇場主には浮かばないが、その当時もし生きていたら、倫理面の判断は違っていたかも知れない。豊かさを求めることこそ倫理的と思ったかも。

11月13日に起きたパリのテロ事件。犯人達は、仏軍の行動への復讐と考えていたと報道されている。たしかに見方によっては、欧州諸国が中東に進出し、石油などの権益を持ち、国際ルールを決めていることが、回り回ってテロにつながっている印象もある。

国際ルール、秩序は、過去の戦争で決まったもの。優勢だった欧州諸国の考えで、イスラム諸国の民には理不尽に思えるルールが多い点は否定できない。だからといってテロ行為に走って良いなんてことはないが、根深いものはあると思う。

加えて、覇権を握った関係で、アフリカ、中東出身のフランス人は非常に多い。彼らの子孫が不満を持てば、テロリストが次々と誕生することは確実で、排除するのは非常に難しいように思う。結果として、猛烈な人種差別が復活しそうな予感もする。

中東からの避難民への扱いも、非常に気になる。隔離されることになると、悲惨なゲットーが誕生することにならないだろうか?中東と欧州の問題に関しては、解決の方法が簡単に見つからない。百年単位で、紛争や戦争、テロが繰り返されるように思える。

それは、覇権争いの結果でもあると考える。

 

 

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