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2015年7月21日

阿弥陀堂だより(2002)

Asmicace

- 無駄多し -

パニック障害を持つ女医と、売れない小説家の夫が田舎に越してくる。村の阿弥陀堂の老婆、恩師、声を失った娘や村人と触れ合いながら、夫婦は癒されてゆく・・・

・・・・医師で作家の南木佳士氏の原作による作品。医学雑誌で紹介されていたので気になっていたが、なかなかビデオ屋さんで見かけることがなく、今回初めてDVDで鑑賞。

原作者はパニック障害から発症し、強度のうつ病を患って自殺を考えたという。そんな病気を乗り越えてきた作家の小説だから、テーマやストーリーには独特のものがあると思う。原作を読んではいないが、この映画もただの癒し系作品とは少し趣きが違うかも知れない。

作者に対する予備知識があるので、特にそう感じてしまっただけかもしれない。何も知らずに観ていたら、「なんで奥さんは症状が改善したんかねえ?ただ田舎に来ただけで、そうそう良くなるとは限らんと思うけど・・・」と、納得がいかないかも。

作品のテーマは、うつ状態からの復帰、回復と言えるだろう。回復のためには、田舎の環境が良い影響を与えていたし、風景、子供と遊ぶこと、過激な仕事をしていないこと、魚釣り、そして老婆や老教師との対話が効果的だったと感じた。

また、重病の娘を助けたいと願う気持ちが、自分の能力を出そうとする方向に自然に向かう効果もあった。病人から自分が助けてもらう効果・・・それは劇場主も感じることがある。勤務医時代も責任感から無茶な頑張りをやることがあったが、開業後の場合はそこまでの重態患者を診ない代わり、入院しないまま生死をさまよう人を診る。そんな時に、もっとも自分の存在意義を感じる。

はっきり調べたわけじゃないが、劇場主が担当すると一般的な医者が診るより長生きする傾向を感じる。微妙なセンスの違い、慎重と言うか、やや臆病な対処の仕方などが功をそうしているのかも。勘違いしているだけかもしれないが。・・・とにかく乗り越えた時は、誇らしいような気分になり、晴れ晴れとする。ちょうど、自分が心理的治療をしてもらったかのように気分が良い。

この作品は完全な大人向きと思う。子供が観ても、あんまり楽しくなることはない。文学少女なら感動するかもしれないが、これは死をイメージした人間でないと感じ方が違う映画と思う。恋人と観るのも悪くはないかも知れないが、少なくとも楽しみたいために観る映画とは思えない。シラケはしないとしても、会話が盛り下がる危険性はある。

ストーリーだけから想像するに、作者の南木氏は本物の物書きに必要な感性を持つ、伝統的な小説家だろうと思う。近年はアイディアは良いが文章は高校生以下の作者でもベストセラー小説を出したりするが、細かいプロットで徐々に読者の理解を促すような緻密さは、やはり本物でないと無理。派手さはないかもしれないが、南木氏は本物だろう。

映像についてだが、画質はあまり良くないと思った。最近よく観る高画質で木々の葉の一枚一枚まで見えそうな映像ではない。美しい山の風景が重要な意味を持つ映画だと思うから、画質にはこだわって欲しい。何か意図があったのかもしれない。

もしかすると結構無駄なシーンが多かったかもしれない。もしくは一貫性に欠けていたのかも。風景を写したシーンは当然必要なのは分かるが、一貫性がないと意味が曖昧になると思う。同じ場所から季節を変えて写す、同じ木を写す、人物か田んぼか、何かと連動させて変化を表現するなど、単純なルール付けがあったほうが、我々には意図が分かり易い。

村人にインタユビューしたシーンがあった。これが見事な会話になっていて、村人が緊張しきった様子がなく、自然であったことに驚いた。ただし、必要なシーンだとは言えないはず。もしかすると作品のレベルを落とすシーンだったかも知れない。

老婆役の北林谷栄は驚異的な女優。90歳を超えていたという。田舎の老婆役に関しては演技の臭いが全くないほど自然。ただ、彼女を写す際に、カメラを相当引いて、離れた位置から撮っていたように思うが、そうする意図が判らなかった。体力的な問題か、もしくは舞台に近い雰囲気を出したかったからか?

映画全体の統一性を考えると、舞台風だったり現地ルポ風だったり、様式が混在するのは好ましくないように思えた。

樋口可南子が主役になる映画は多くないが、出れば見事な存在感を示している。美しくて、しかも自然な演技のスタイルが素晴らしいと思う。かっての大女優たちのような迫力を出す役柄は見たことがないが、自然な雰囲気を出すことに関しては、第一級と思う。

ただし、今回の役柄は病気の女性であったので、病的な反応が観客にも伝わったほうがよいはず。前半では話の調子が軽すぎたり、反応が早すぎたり遅すぎたりして、話している相手が調子を狂わすエピソードがあるとよい。それが徐々に正常化し、落ち着いて行く・・・そこまで演出できれば、もっと凄かったかも。

ラブシーンがなかった。派手でなくてもよいから、ぜひあるべきと思う。回復には性的な要因も大きく絡むと思うし、夫婦の映画でラブシーンが全くないというのは、かなり異常とも思う。大事だったのでは?

加古隆のテーマ曲は「イマージュ」シリーズでも聞いていたが、実に美しい曲。でも、実際に映像といっしょに聞いてみると、この作品のテーマに完全に合致してはいない気もした。もっと悲劇なら合うと思う。前半ではスローな曲調にするなど、何かの変化が必要なかったろうか?

 

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