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2015年7月 9日

無法松の一生(1958)

Touhou

- 町人の理想 -

暴れん坊の車引き松五郎は、喧嘩っ早いがきっぷの良い男。ある少年の怪我をきっかけに軍人家族と知り合って、少年の成長を見守るが、彼には秘めた想いがあった・・・

・・・三船敏郎シリーズが衛星劇場で放映されていて、6月7日鑑賞。この作品の前には同じ監督による有名な作品があるが、こちらはリメイク版。三船は、声といい、表情といい、無法松にはピッタリだった。彼は、こんな無茶苦茶な人物を演じても好感を抱かせる稀有の存在だと思う。

坂妻版はまだ全体を観たことがない。何かの紹介で観たかぎり、車の輪が回るシーンは、この作品と共通しているようだ。同じ監督だから、そっくり使ってよい手法とは思うが、今日見る場合は、もう一工夫あっても良くなかったかと少し思う。

坂東妻三郎は、表情や雰囲気は確かにきっぷのいい人間に見えるし、実際にもそうであったらしいが、見た目の迫力、体力的な面においては三船に敵わない。妻三郎は、おそらく元々が座長だったことから発する立場上の優位がキャリアに有効に働いたと思う。芸の部分では、元々が芸人のバンズマの方が上かも。

主人公のキャラクターも面白い。腕力があっても性格が悪いと周囲の者は大いに困るが、普段は好人物だと独特の存在価値が出る。真面目一本の人間より、仲間意識が芽生えやすい。これは子供の頃の感覚、感情が思い出されるからかも知れない。要するに、いっしょに遊ぶ時に面白い。

松五郎は町人の理想形のひとつではないか?大店の旦那も理想形のひとつだろうが、遊ぶ時に楽しく、喧嘩の時には頼りになる楽しいヤツも立派な存在感を持つ。

ただ強引に自分の都合ばかり優先する、そんな人間は松五郎とは異なるパターン。いわばドラえもんのジャイアン型。よほどなことがないと、ジャイアンは好かれない。松五郎の場合は、自分の損得よりも大義、気持ちを優先する点が違う。

また、権威や権力に対する感覚も大事。筋の通った説教に対しては、イタズラ小僧のごとき表情であっさり降参する。そのしおらしい態度が笑える。権威や権力におもねるような人物では、尊敬の念は生じにくい。へつらいは、下層の町人に対する圧制を連想させるから、生理的に嫌なのだろう。

一般に家庭を持つと生活が安定していることが望まれ、権力者には従わざるをえないから、松五郎的な人間は独り身になりやすいと思うが、この作品でもちゃんとそうなっていた。粋な人物は、よき家庭人とは相容れぬものがあるらしい。

所帯を持つ異端児の場合、奥さんは相当な苦労を強いられると思う。といっても、現実社会で滅多にそんな人物には遭遇できないから、そんなイメージを持っているだけだが、所帯が解消せずに続いた場合、奥さんが耐えるか、御主人が折り合いをつけてくれるか、そこらが落語的な展開としては重要な点になる。

この作品で、三船敏郎は歌を歌ったり、太鼓をたたいたり、かなりの芸を見せている。特に太鼓のシーンは素晴らしい。本職の太鼓たたきの指導があったとは思うが、嬉々として打っているような表情、体の動きが実に絵になっている。

ただし思ったのは、若い頃の主人公が祭り好きな様子が事前に出ていなかったのが不思議。松五郎のような人間は、普通は取り巻き連中がいることが多いと思う。自然と好かれるから当然だ。祝い事の時には祭り上げられてしまう、そんな個性が自然では?

そこからヤクザ衆への道を進むのは、町人としては堕落。粋な町衆は徒党を組まない。あくまで独りが中心で、祭りでは中心に位置しても、普段は社会階級の下のほうで満足。立場をわきまえている。それが松五郎的人物としての基本であり、理想の形と思う。

だから、祭りになるとそわそわして仕事に身が入らなくなるような主人公であるような、そんなイメージがあるのだが、勘違いだろうか?そんな人物が、時代が変わって祭りの中心から外れている、そんな現象が実際にあったはずと思うのだが・・・

ヒロインは高峰秀子で、清楚な未亡人という個性かどうかは疑問に感じた。演技力より、見た目で選んでも良くなかったろうか?これは、あくまで松五郎の物語なんだから。

この作品は今の子供には理解不能かも知れない。アクションを売りにした作品でもないし、恋愛も奥ゆかしい。言葉使いも古くさい。ギャグも理解不能であろう。恋人と選ぶべき作品とも思えない。でも、かなり芸術的な完成度の高さ、高級感を感じることはできるように思う。

 

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