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2015年6月 9日

鉄道屋(1999)

Touei

- 滅びの美学の表現 -

国鉄一筋数十年、今は駅長を務める主人公は、責任感が強く、妻や娘の臨終にも立ち会えないままだった。路線の廃止と自分の退職が迫ってくる・・・

・・・浅田次郎原作の短編が原作らしいが、読んだことはない。素晴らしい設定の話だった。5月19日、衛星放送で鑑賞。

美しい話。滅び行く者の哀感、愛情や友情など、話を形作る要素が総て美しい。この種の滅びの美学が万国共通のものか知らないが、少なくとも日本ではメジャーな路線だと思う。そのためもあって、この作品は家族で楽しむことができると思う。ただし、小さい子は退屈するかも知れない。

主役の高倉健は、実年齢は役よりはるかに上だったと思うが、メーキャップ技術が良かったのか、かろうじて役柄に合致していた。いつもよりセリフが多い気がしたが、原作のセリフがそのまま残ったからではないかと想像する。

共演者が大勢出ていたが、子役に素晴らしい娘を選んであって、可愛らしかった。当時の広末涼子はニヘラニヘラした笑顔が気になったが、この作品では適度に抑え気味の笑顔で、なかなかの好演。でも、もし可能なら悲しげな表情を中心に演じて、メロドラマの盛り上げ効果を狙っても良かったのではと感じた。

大竹しのぶや、その他の俳優達も全般にセリフが多い。普段は黙って芝居する傾向がある俳優でも、やたら話したり、電話で一人芝居をしたり、ちょっと忙しい芸風に変わっている。でも、それが良かった。あまりに寡黙すぎると、暗くなりすぎるきらいもあるから。

珍しく志村けんが出演しており、まことに真面目な役者ぶりで演じていた。彼の本当の顔つきは、実はかなりシリアスな芝居向きのように思う。先日のNHKのギャグ番組では、サラリーマン役を終始厳しい表情で演じていたが、あんな顔だと深刻なドラマでも充分にやれそうだ。

おそらく、そのへんを見越した高倉健やスタッフが、話題集めの一環もあって呼んだに違いない。タイトルもよく考えてあった。普通の言い方では誰も注目してはくれないはず。「ぽっぽやって何?」と意外性を持たせたのは効果抜群だったろう。

‘ぽっぽや’という言い方が一般的に使われていたのか分からない。国鉄職員の間では普通だったのか?それに、作品の中で繰り返し使われるべきだったかも分からない。何か自虐的な意味合いなどで、仲間内でこっそり使われる用語なら、もっと回数を絞って使われるべきだったかも。

クワイ川マーチが使われていた。主人公は日本の復興に尽力しようという認識を持っていたから、かなりの軍国青年だったはずだが、その周囲の人間が、日本が悪役の映画の曲を平気で好むところが面白い。実際、日本人の多くは名作として「戦場に架ける橋」を楽しみ、曲も口笛を吹くまで親しんで、何の問題も感じなかったろうと思う。日本独特の感覚かも。

夢のような話が後半に登場していた。ところが、他の映画でよく使われるノスタルジックな雰囲気や、メロドラマ調の盛り上げ方はされていなかった。ちょっと妙な態度の娘達が登場していたが、ごく普通の色彩の中、ドラマの演出はごく普通。

「ニュー・シネマ・パラダイス」のような、強い郷愁、抑えがたい愛着を感じさせる演出でなかったのは、やや意外な印象。滅び行く職場や、終わりつつある自分の人生を思うなら、もっと主人公の心が震える様子が分かったほうが良い。何か狙いの違う演出だった。舞台や、テレビドラマ的な印象を受けた。

都合の良いタイミングで、寺から電話がかかるのもおかしい。その点は常識的に気づきそうなものだ。どこかで事前に寺と電話で話すシーンを折り込み、毎日のように電話がある関係を描いておくなら自然だが。

そう言えば、カメラの移動が少なかった気がする。列車を撮影する時も、同じ位置。駅の光景も数種類の位置からの視点に限定。主役と娘が会話する際も、カメラはほとんど固定されたままだった気がする。

滅びの美学、亡くなった者への感情を表現する場合、昔からの約束のようなものから外れない方が良いと思う。互いの感情の変化に合わせながら、カメラの位置も変化しないとおかしい。

 

 

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