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2014年8月23日

スティーブ・ジョブズ(2013)

- 偉大なクソ野郎? -

アップルの創始者の伝記映画。主演はアシュトン・カッチャー。歩き方やメイクも非常によく出来ていて、伝記ものとしての出来栄えは最高のレベルだったと思う。DVDで鑑賞。

興味深い映画だった。彼の良い面も悪い面も正確に描こうとしていたと感じた。豪腕を発揮して新しいプロジェクトを次々と成功される姿、派手なプレゼンテーション、輝かしい成功は、彼を英雄とする一般的感覚に近い。敬意を表現していた。

彼はいっぽうで、あくどい行為も多かったらしい。映画では描かれていなかったが、違法行為も結構やっていたようだ。たぶん、アイディアを盗む行為もやっていたろうと想像する。そもそも友人の作った最初の作品を売り込んでネコババするなんて、感心できない。娘の認知に関しても、事情は知らないが無責任かつ非人道的だと思う。認知を拒んだ理由は何だろうか?

性格的にも、非常に温厚とはいかなかったようだ。映画で描かれた主人公も、かなり変人で独善的、横暴な言動が目立っていたように思う。障害者用の駐車場に一貫して駐車する点もおかしい。ただし、強引さや飽くなき野心、こだわりがなければ、彼のような仕事は到底出来なかったと思う。良い人でも偉大な功績をあげることはあると思うが、一般的には個性派が非常識な努力で成し遂げることが多いのでは?

そんな彼の実像が垣間見れたような気がした。上手く描いていたと思う。ただし、この作品は子供や恋人と観ても全然楽しくないように思う。一人で観ても楽しめるという方向性がない。この作品はデザインを間違った→ ジョブズから怒られそうな作品であろう。

事業の創成期、大成功、追放劇、復活を大きな流れとするのは当然だが、詩的に描く、あるいはスリリングな対決ドラマタッチに描く、あくまで家族や友人との確執を悲劇的に描くなど、色々なデザインはありえたと思う。この作品は斬新だったろうか?独善的生き方だが、栄光や哀愁に満ちた美しさ、そんな味わいのようなものが映画としては欲しい。

ジョブズ以外で、目立ったのは共同創業者のウォズニアック。実質、彼がアップルコンピュータを作ったとも言える人物。ジョブズの元を去っていくシーンは良くできていたと思う。でも、もっとドラマティックにできたのでは?斬新さが足りないぜ。

ジョブズの真骨頂は、彼がアップルに復帰してからだと思う。元々社員に、彼の姿勢に賛同する人が多く、カリスマに期待して新製品を編み出そうという空気があったようにも思うが、新しい感覚に適切な評価を下すセンスがないと、ヒットを続けるのは難しい。センスは抜群だったに違いない。

役員達を粛清に近い手法で処理した点も、経営者には必要なことだったと思う。具体的にどうやって支持を取り付けたのか分からないが、脅しや取引、裏工作なんでもあったのでは?それなくしては、彼の業績はなしえなかったのも真実だろう。

そもそも彼は発明家ではない。発明家や技術者達を動員し、資金を集めて実体化させた事業家だ。イノベーションを起こしたのは確かだが、多くのビジネスマンと仕事の内容は似たようなものだろう。革命的な展開を成しえた点が違うが。

コンピュータ言語を開発していった数学者達や、マイクロプロセッサを開発した技術者達、インターネットの理論を具体化した人達など、もしかするともっと凄い巨人になりえた人も多かったと思う。ジョブスはヒットメーカーとして、やや目立っただけかもしれない。

アップルのパソコンはマック1~2の頃に一度だけ持ったが、互換性の問題などから以降は買っていない。だから、アップル社の動向にも、ジョブズの動向にも注目することはなかった。ジョブズという人物の存在は、彼がアップルを追放された時に知った。

後年、Ipodが出てからはさすがによく知るようになった。それまでは会社がどこかに吸収されるだろうと思っていたが、斬新なデザインの機種を使っている同僚が増えて、勢いを盛り返しているらしいことを感じ、そしてヒット作が次々と開発され、驚くべき巨大会社に成長してしまった。一時は興味もなかったし、予想もしていなかったのに。

皆が知っているipodだから、その開発を斬新に描くことが望ましかった。皆が開発に否定的な意見を述べたり、投資を嫌がったりして大ヒットを予想できなかった様子がぜひとも再現して欲しかった。私も当時ウォークマンで充分だと思っていた。数百曲聴く必要、あるわけないと。・・・いまだに必要ないくらいだ。それを開発し成功するなんて・・・

新しい技術が開発される時期には、こんな急成長もあるのだという良い例だろう。パソコン、IT技術、HDDや様々なソフト、CPUの高性能化などが互いに影響しあって、急展開するのに驚く。東芝の技術なども広く使われているらしい。単独で総てをなしたわけではない。

どうやって反対勢力を押し切ることができたのか、その点に興味がある。説得できるプレゼンテーション能力があったし、早い段階で資産家になって役員になっていたという立場上の優位も役立ったろう。独特の冷たさで、仲間といえど排除できた判断も役立ったのだろう。基本として絶対に人に譲らない人が欧米には多いらしいが、きっと彼も意見を曲げるタイプではなかったと思う。でも、もし彼が他人の意見を押しのけなければ、平凡な作品しかできなかったろう。

幸運もあった。ウォズのような天才型技術者と知り合ったのは偶然だと思う。彼の技術が金になることを察知できた感覚は鋭かったろうが、当時おそらく売り物になるというのは思い込みに近いものではなかったろうか?そんなにパソコンユーザーがたくさんいたはずはないから、大量には売れないという判断のほうが正しい。最初にiPodを考え出したとしても、製品化は難しかったろう。偶然の時期も重要。技術が進歩してくれたから、夢が現実になっただけかも。

その業界の内部にいれば、持ち株の値上がりによって富豪になることも夢ではない。たくさんの成金達が出現し、追放や合併吸収、新製品での形勢逆転、スパイ活動などなど、ドラマは多かったろう。今後、急成長しそうな業界はどこだろうか?コンピュータや通信業界ではないように思うのだが・・・

夢に賭けて、そして急成長し、様々な製品を作り出してくれた彼に敬意を表したい。どんなクソ野郎だったか知らないが、多くの人間を不幸にしたわけではないし、革新的な製品を売り出してくれた。殺しや破滅を目的として行動したわけではなく、ビジネスを追求したと思う。ビジネスのために、もしかすると悪行非道はやったとしても、先見性や企画力は凄かった。

私も充分独善的なクソ野郎だが、彼ほどの名声は集められなかった。ただのクソ野郎で、アイディアも能力も足りなかったようだ。チャンスは感じていたが、コンピュータ業界に興味がなかったから、思い切って乗り込む気になれなかった。一般的に欧米のビジネスマン達は、騙し脅し、相手の不幸を認識している点で、もっと悪辣だと思う。そんな世界でやっていくと、自分のクソ野郎ぶりが増しそうで怖かった。

怖がるからダメなんだろう。人としての良き道にこだわりすぎたような気がする。

 

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