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2014年7月30日

歩いても歩いても(2007)

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- 秘めた怨念の表現  -

老夫婦の家に次男と長女の家族が集まる。長男は事故で亡くなり、両親は跡継ぎを失って失意の日々、長男と比較される次男は、何かにつけて被害者的な反発を禁じえない。そんな家族の物語。

是枝裕和監督のオリジナル作品らしい。7月1日の衛星テレビで鑑賞。ドラマのアイディアが素晴らしく、しかも演出にも無駄や無理が少なく、適切な手法が素晴らしかった。新しい形で日本の家族を描く監督であることは間違いない。どうやら現代版の小津安二郎のようだ。そう言えば、小津調のシーンも時々あった。ただし、ワンパターンにならないように、ちゃんと他の角度からも撮影していたが。

そういった細々したことに、いたって常識的なのが監督の特徴かもしれない。さりげなく、自然に、丁寧に、奇をてらわず、無駄なく無理なく、そんな作風。極めて日本的な家族の姿が、上手く表現されていて感心した。これ以上の描き手は思いつかない。

阿部寛は他の映画ではオーバーな演技を要求されているようだが、この作品では自然さを保つことができていて、非常に好感を持った。ただし、適役だったかどうかは分からない。もっと客を呼べるスター性の高い俳優のほうが、この作品の地味さを考えると良かったかもしれない。

おそらくジャニーズ系タレントでも演出で良い味を出せたのではなかろうかと思った。例えばキムタクなら、年増女を連れてきた次男の雰囲気はさらに増す。女の子供からなめられそうだと、なんとなく立場的に弱そうな感覚は強まる。キムタク以外でも、すねた表情が出せるタレントなら誰でもいい。コメディアンでもいいかも。

夏川結衣の演技は、今回はとても良かった。いつもは演技らしい演技に陥る傾向を感じるが、自然な範囲に落ち着いていたように感じた。演出が良かったのかもしれないし、元々普通の人たちの普通の感情を基にした作品だから、表現もやりやすかったのかもしれない。 

高橋和也は、安月給のサラリーマンの雰囲気が非常に上手い。独特の風貌が役立っているし、声の出し方なども、いかにも偉くなりそうにないけど、しっかり仕事にしがみついている感じがして好感を持った。

寺島進のすし屋さんも、驚くほどに素晴らしかった。普通はヤクザ役が板についているが、昔荒れていた商売人といった雰囲気にバッチリはまっている。声の調子がいい。いかにも商売をしている人間に特有の、妙に媚びたような声色の使い方が絶妙だった。 

樹木希林が、この作品の主人公だったと言えるようだが、それに途中まで気づかなかった。彼女が演じる人物は、どこか自分の世界に入って、他人の都合に関係なく動くようなKYな女性が多い。ボケてるんじゃ?と思わせる。今回の女性も、長男を犠牲にした若者、次男に合うか分からない女、浮気をしてたらしい夫などに対して、毒を含んだ言動で仕返し~イジメめいた仕打ちをする様子がよく分かった。

その間の演出の仕掛けが素晴らしい。こんな仕掛けは、欧米のファミリー映画には時々出てくるが、日本映画で同じようにやろうとすると、女優が恨みごとを激しく叫んだり、勝ち誇ったり、少し激しすぎるものになる傾向があった。この作品は、日本女性によくある態度で、最後まで秘めた形で怨念を表現していた点が自然だった。

ある意味で、女性の多くは怨念を抱えて生きていることが多いらしい。何を隠そう、我が家の女性1名も怨念の塊である。私に言わせれば、一日中(酷い時は丸二日間)寝転がって家事をサボる身分で、何を恨むの?こっちが恨みたいよと言いたいけど、とにかく自分は悲劇のヒロインで、必死に耐えている、努力している心算らしい。自分を崇めない家族は、呪われるべきと思っているようだ。

そんな悪しき例はさておき、子供が先に亡くなってしまった母親の気持ちは、神を呪うがごときだろう。「何も悪いことしてないのに・・・」といった未練たらしいセリフはドラマでは珍しくないが、次男を苦しめかねない女に冷たく接する態度や、夫にも浮気に関して攻撃する冷酷さは、あたり構わず寄らば切る、恨みと呪いと混じったヤケクソじみた感情のなす業に違いない。

我々はともすれば彼女らの言動を、「こいつは相手の気持ちを考えず・・・」だとか「言葉にトゲがあって大人気ない・・・」だとか、簡単に片付けようとしてしまうが、彼女らは自分の気持ちに忠実に、精一杯の抵抗の意味で行動しているようだ。毒づくことが正しいとは言えないが、正しいかどうかは彼女らには重要ではないこと。他の視点からの忠告は、受け入れ難いものだろう。

「ブルーライトヨコハマ」の歌詞、「歩いても~歩いても~」に絡んでも、強烈な過去の出来事があった。ブルーライトヨコハマは、今考えても素晴らしい曲。いしだあゆみの甘ったるい声も素晴らしいし、何となく都会的な雰囲気の曲調に、田舎者が多い新しい町の勢い、若さや色気のようなものも漂う。あの頃の歌謡曲は、自由で豊かになった嬉しさが基調にあるせいか、芸術の域に達するような高度な作品が出ていた。作品の中で語られるように、日本のラップミュージックは昇華されていない。

 

 

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