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2014年6月15日

ウルフ・オブ・ウォールストリート(2013)

Universal

- 憧れと嫌悪 -

証券業界に入った主人公は、変人の先輩の薫陶を受け、会社を興し大金持ちになる。しかし私生活は破綻し、FBIにも眼を付けられる・・・

DVDで鑑賞。興味深い話だった。力作だったと思う。かなりは実話らしい。原作者は今も講演活動をやっているそうだから感心するし、呆れる。さすがと言うべきか、この映画の原作によっても相当な収入を得たらしい。

マイクを持ちながら「金を得るためには容赦するな。電話をかけ続けろ!」などと叫ぶ主人公は、その徹底ぶりがカッコイイと思えた。といっても自分は強い憧れを覚えないが、純粋に憧れる若者も少なくないかも。マンション販売の電話攻勢をかけてくる連中も、やることは似ているから同じ手合いなのか?

この作品を特徴づけるのは、下品なシーン。さすがに人前で小便をたれてみせるのは汚いと思うんだが、それを上司が部下の前でやってのけると嫌悪感を感じる。嫌悪感を感じてもらうのが狙いだったのだろうから、充分な演出だったことになる。

大勢の人間がヤクをやりながら広い仕事場でセックスに及ぶなんて、考えにくいように思う。たぶん本当は小部屋に隠れながら、場所を替えて・・・というのが実態ではなかったかと思う。かなりの乱痴気騒ぎは本当だったろうけど。

ディカプリオが演じた主人公は犯罪者だし、重症の薬物中毒者だが、惨めな時間も派手な活動をやっていた時間もサマになっていて、それなりの魅力を持っていた。底の深い何かの動機があるようには感じなかったが、懸命に儲けようとしたことや、才能があったことは間違いない。

同じくレオ様が演じたギャッツビーには寂しさや一途な恋心があって、謎めいた寂しげな部分が魅力だったが、この人物はもっと徹底的な儲け主義、あくどい騙しの意図、犯罪性が明らか。でも、その徹底ぶりは、ある意味ではより現実的で存在感のある人物になったとも言えるから、その面から見ると別な魅力はあった。

二番目の奥さん役はマーゴット・ロビーという女優さんだそうだが、野心的で色っぽいところが非常によく出ていた。奥さんが主人公の顔を足で拒絶するふりをするシーンもおかしかった。でも、あのシーンは横からの絵を期待しすぎて下品さが目立ち、やや質を損なってしまったかも知れない。笑えるお色気シーンに留まるほうが、観客としては好感を持てると思う。無理な成り行きだった。

奥さんの個性がもっと全面に出たほうが良かった。怒っても可愛らしい喜劇女優のような方のほうが最適だったのでは?基本が喜劇映画なんだから、奥さんも金を隠そうとドタバタしたほうが良い。

薬物のせいで車に乗れなくなった主人公の姿はおかしかった。軟体動物のようにフニャフニャになって階段を転げ落ち、車に乗り込もうとあがく姿は、惨めで憐れだった。あのシーンはよく撮れていた。若い頃のディカプリオが出演していた「ギルバート・グレイプ」で、障害を持つ少年が妙な身振りで生活している様を上手く演じていたが、レオ様は今回のような極端な動作をさせると非常に上手い。最近の彼の映画の中では一番似合っていた。

滅多にない良い題材だったと思う。でも、この作品はたぶん名作にはなれていない。品のなさを強調しすぎた点が、興行的にマイナスだったのでは?それに主人公の描き方にも疑問が残った。観客に向かって独白するスタイルは、現実味を失う傾向につながり、すなわち共感できない方向に陥る。

難しいことだけど、徹底的に富を求め、FBIの追求から何とか逃れようと工夫するドタバタ劇をヒーローとして描きつつ、仲間に対しては熱い友情を保つ、例えば「明日に向かって撃て」のスタイルなどが参考になったのではないか?

鮮やかな手腕でFBIの追求をかわし、彼らを笑いものにする、派手なパーティーで騒ぎ、ヘロヘロの惨めな状態になって、また大勝負に出て大金を得る・・・その間、友だけは裏切らない・・・そんな路線では実像に合わなかったのか?

豊かになろう、金持ちになろうという野心や希望は悪いことではない。激しい競争心は社会の活性化につながる。株が大きく動かないと、経済活動が活発にならないから、社会全体が沈滞してしまう。騙される人間が多くなりすぎないように、一定のルールの下でなら、派手に活動するのは悪くない。特に製造業の場合はそうだ。サービス業の場合は実質的な生産を伴わない場合、ちょっと困った影響もありうるが。

中国やインドでも、何かに成功すれば巨大市場で天文学的な金額の収入を得るチャンスがある。野心が渦巻いて、そのためなら戦争でも始めようかと考えないとも限らない。実際、権力を握った企業家達がアメリカを支配し、覇権を拡大してきたのだろう。同じことが中国やインドで起こっても不思議ではない。「我が国の権益を・・・」と言いつつ、実はビジネスマンだけの利益を求めているものだ。

米国のビジネスマン達はスマートなやり方で、より高額な取引、より莫大な収入を得て、しかも逮捕は免れているのだろう。手法や会社の規模、伝統に少し違いはあるものの、本来の姿は同じようなものと想像する。アメリカの場合、年収が数十億に達する人も少なくないそうだが、そこまで行くと良心に捉われて手加減しようという気にはならないのかも。感覚が麻痺してるんだろう。

儲ける能力とチャンスがあり、どうすれば成功するか分かる場合に、「でも良心がとがめるんだよな・・・」と言っていたら、他のウルフ達に儲けをかっさらわれてしまうだけ。そんなら、自分がやるべきだよな・・・と考えるのが自然。日本に市場を奪われるくらいなら、奪い取らないと立場を失うから戦争するし、日本経済が復活して米国の権益を脅かせば、対日要求をしてくるのも当然。真のビジネスマンはウルフより怖い。グローバリズムという理屈で攻めてくるから。

グローバリズムは、有名な学者達が一派を作って宣伝している。安倍政権の理屈も学者が側面から支援し、おそらくTPPも戦略のひとつなんだろう。乗り遅れてはならないという焦りを利用し、ルールを都合よく作れば法的に安全になり、通商がやりやすくなる。特に中国が物騒な動きをしているから、日本としては参入するしか選択肢がない。

ただ、一部の富豪を除き、多くの国民は不幸になると予想する。地産地消のような地域経済は破壊されやすくなるし、農林漁業に立脚していた地方ほど衰退が目立つ傾向は出るはず。GDPは高くなるかも知れないが、一人一人は充足感を持って生きていけない世界が待っている可能性はある。TPPからの離脱は常に考えておいたほうが良い。

ビジネスマンの世界でも、ハイソな階級になればなるほど相手からの信頼を得る必要も高まり、ヤク中は少ないだろうと思うのだが、実態は知らない。意外にハイソな人たちにも中毒は広がっているのかもしれない。薬物中毒は、同時にセックス中毒や、事故、暴力沙汰、急死などのリスクも高めるだろう。

真のビジネスマンになりきれない野心家の多くは、結果として太く短い人生になる。日本でも、ホリエモンを題材にすれば同じ系統の作品を作れるかもしれない。多くの医者もそうだった。昔は病院を建てれば必ずのように成功していたが、一定の規模に到達できないと倒産や合併の運命にある。相当な数の先生が急死している。ストレスが凄いからだろう。

私は医学部に入る前に、収入面に関しては絶望していた。既に医療費削減の動きは見えていたから、頑張っても限界はあるだろうと。今後もひどくなる一方だろう。そもそも良心的にやろうと思えば大きな収入は得られない。意義の薄い検査や手術を数こなさないかぎり、儲けにはならない。家を建てて家族を育て、老後最低限の生活ができれば、大きな不満はない。でも、なんて野心のない生き方か。ウルフ達から笑われそうだ。

おそらく荒野で暴れる狼を眺める小動物は、私と同じような感傷に浸るのかも。自分は狼にはなれないが、少なくとも可能なら狼のように派手に生きたいと、感覚としては持つのでは?では、もし自分が狼仲間の場合はどうか?

無茶な狼に獲物を独占されたら困る。自分らに獲物を分けてくれるならヒーロー。羊には多少は気の毒だが、自分らの利益を増やしてくれたら喝采を送る対象。対する羊たちは、牙の代わりに法律で武装して狼と対抗する形で、今回の作品では羊の視点から見れば正義が行われたことになる。

狼の視点で見れば、良い生き方でなくとも目的と手段が一致する解りやすさ、興奮や満足、周囲から一目置かれる気分、そんな動物レベルの情動から言って、ウルフ君に憧れは感じる。欧米のビジネスマンのひとつの形だと思う。ウルフを嫌うビジネスマンも多いだろう。ハイエナやヒョウだったり、儲け方に若干の違いはある。でも富を激しく、徹底的に追及している点は同様。

 

 

 

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