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2013年12月26日

マンデラの名もなき看守(2007)

Nelson_mandela

- 現実的英雄 -  

黒人解放運動のため入獄中のマンデラを担当することになった刑務官。自らの出世や家族の生活と正義の狭間で苦悶することになる・・・

・・・主人公の刑務官は既に亡くなっており、先日とうとうマンデラ氏も亡くなってしまった。生ける最後の英雄のイメージがあったマンデラ氏だが、最近はずっと入院していたらしい。

主人公は「恋におちたシェークスピア」で良い役を演じていたジョセフ・ファインズで、正義漢らしい表情や、家族を犠牲にした際の悔やむ表情など、弱さの表現も抜群に上手い。良いキャスティングだったと思う。

彼が人道的な行為を採れば、同僚からどのような態度をとられるかは、日本の会社でも考えられる。会社ぐるみで不正行為をはたらく場合に、独りだけ反対したらどんな仕打ちを受けるか想像がつく。会社への依存度が高い場合には、優秀な人達でも道義的な面に目をつぶるのが実際。

転出が許されたのは、彼の特技のせいもあるし、国民性や権利意識の違い、歴史が違うからかもしれない。情報部が彼に融通を利かせてくれたのは幸運だった。芸は身を助く。

彼の妻を演じたのは美人女優のダイアン・クルーガーだったが、ごく一般的な当時の白人女性の悪い面を演じないといけないので、浅ましい部分が出るような、もっと軽い雰囲気の陽気なオバチャン女優のほうが適していたのではと思った。

そして彼女のような人達が、徐々にマンデラ氏を支持するようになり、彼の解放に歓喜の涙を流せる・・・そんな演出が成功していたら、つまり彼女の変化を大きく描ければ、この作品の感動のレベルはもっと高まったのではと思った。充分な感動作だったけど。

この作品でマンデラ氏を演じたデニス・ヘイスバートには、迫力については本物と見まがうほどのものがあった。ヘイスバードはテレビ番組でも大統領を演じているそうだ。大柄で眼力があり、声も太くて落ち着きがあり、そのまま本当の政治家になってもおかしくない。何といってもレーガン大統領の例があるくらいだから、出馬を期待する人は多いのでは?

演出も良かったのかも知れない。看守になって直ぐ声をかけた時、卑屈な囚人なら急いで顔を向け、機嫌を取ろうとするだろう。でも、ゆっくりと顔を向け、視線すら合わせない尊大な態度をとれることは、彼の偉大さをイメージさせた。並みの根性、度胸ではないことが充分に伝わるシーンだった。

実際のマンデラ氏は岩を砕く作業で視力が低下してしまったそうだから、他の囚人と同様の厳しい労務を強いられ、押されたり引っ張られたり、言葉による陰湿な拷問は受けていたに違いない。犯罪にならないように刑務官たちが共謀して、計画を立てて煽ったりしていたのでは?

確かに拷問とはっきり解ることは、黒人たちを刺激し過ぎるので無理。法的に明らかでないちょっかい、イジメの類に限ってだろうが、なかったと考えるのは難しい。

そんなシーンはなかったが、実際には埃にまみれ、疲れきった姿もあったろう。それは、しかし作品の質に合わないと判断したのか、もしくは原作者が書いていなかったのかと思う。描けば、氏の品位を下げるような悲しみや怒りの表情も表現することになるから。それに、マンデラ氏を拷問した白人を許さない・・・そんな感覚が発生してもらっては困る。

氏が亡くなった後、モサドの記録が発表された。マンデラ氏がモサドから軍事訓練を受けた記録があるという。共産主義者的な思想を持つ人物と評価されていたそうだ。興味深い話。黒人を含めた平等=共産主義とイスラエル人には写ったのだろうか?

または、実際に当時のマンデラ氏が共産主義者か、それに近い考え方を持っていたのかも知れない。正確な資料を読んだことがないので解らないけど、支配層が白人で資本主義者なら、マンデラ氏の目指す道は自然と共産主義的な側面を持つとも言える。

共産主義のままでは西欧の支持が得られないという現実があり、また共産主義を全面に押し出して米ソの対立の前線に国を陥れるという最悪の事態だけは避けたい。若い頃はともかく、70年代以降のマンデラ氏達のグループに、共産主義という選択肢はなかったのでは?

イギリスやアメリカの介入を呼んでしまうと、彼らが生きているうちに政権を覆すことは絶対にできなくなる。経済的にも苦しい。内心がどうだったか知らないが、資本主義は維持し、過去の恨みは水に流し、民族間の融和と協調という道を貫くしかなかったと思う。

それができるのが凄いところ。息子を事故に見せかけて殺した連中がいたのでは?と探索したくなるのが権力を握った時の人間の考え方だと思うけど。

実際にもテロリストとして、少なくともテロ計画に参画した時期はあったようだ。彼はインテリで法律家だから役目が違い、実働部隊ではなかったかもしれないが、軍事訓練を受けたということが真実なら、彼の真の姿はかなり強硬なものもあったということになる。

根拠はなく、ただの勘なんだが、本来の彼は戦士そのもので、氏を偉大にした融和路線は、交渉や思惑の帰結に過ぎないのでは。彼の年齢も事態の進み具合に好都合だったのかも。若い時期に開放されていたら、怒りの影響が強く出てしまった可能性はないだろうか?・・・無論、27年間の投獄を正当化する意味ではない。

とにかく、偉大なる判断により、大量の難民が発生したり大規模な虐殺、復讐が起こることはなかったようだ。今、南アメリカは経済的には好調ではなく、貧富の差も激しいままだそうだが、急速な改善は最初から無理。マンデラ氏らの判断が無駄にならないよう、今後のかの国の人々の幸せを祈りたい。

 

 

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