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2013年7月16日

故郷(1972)

- 一般人の悲劇  -

瀬戸内の小島で砕石運搬業を営む家族。事業の採算がとれなくなり、転職するか悩むことになる・・・

・・・以前、どこかで見た記憶のある作品。特殊な砕石運搬船が題材になっていた。「東京家族」を観た後に山田洋次監督のことが気になり、監督の作品を探しているうち見つけてDVDで鑑賞。

2年前には同じスタッフによる「家族」も製作されていているはずで、この作品は慣れた手順で作られたと思う。この頃の山田監督作品は、社会問題の問題提起の性格が強かったようだ。寅さんシリーズの印象しか私にはなかったが、私の勘違いで元々は社会派だったようだ。この作品を、このままNHKスペシャルで放送してもなんら問題ないような、そんなテーマ。

この作品は、尻きれトンボのような終わり方をしていた。構想を充分に練る時間がなかったのか、途中のドラマが素晴らし過ぎてラストまで間が持たなかったのか、または予算の関係か、理由は判らない。

子供には全く受けない内容。恋人と観るには少々重過ぎるテーマ。今となっては、映画好きでないと興味の持ちようがない作品かと思う。

井川比佐志と倍賞千恵子主演、笠智衆のお爺ちゃんも健在。数年前に共演した仲間だから、息も合っていて本当の家族のようだ。現場を見てないので解らないが、製作スタッフの息も合っているかのような印象。

井川の無骨そうな顔が素晴らしい。およそ主役にはふさわしくない顔。声も体型も、いかにも労働者を思わせる。演技なのか本当に怒っているのか解らないくらい自然な演技。彼は最近でもよく出演作を見るのだが、名脇役であって映画界の中心を走っているとは言えない。こんな映画だけに向く個性だったようだ。

倍賞千恵子も、およそ芸能人らしからぬ風貌。実際には相当な美人なんだろうが、映画研究会に所属しているかのような庶民臭に好感を持つ。表情もよく考えていたのだろう。他の人を見下げたりするような冷めた視線ではなく、心の部分で家族を支えようとするかのごとき懸命さが感じられる。

砕石運搬船というものが実に奇妙。おそらく明治以前には帆船か手漕ぎの船で運んでいたのではないかと思う。エンジンが入って高性能になり、漁民が運搬船を買って乗り出した時期があったのでは?そして、高性能の大型船やトラック輸送に職を奪われる運命になったと想像する。

エンジンが入手できるようになった時期には、購入して大きな収入を得られる人と、手漕ぎや帆船でゆっくり運搬する人との差が出てしまう。きっと大きく賭けたくて、我先に購入したことだろう。帆船とはスピードが違うから、懸命に働けば収入も凄い。努力が結果となって出てくれば、やりがいもあるはず。

しかし、他の産業が発展すれば、どこかの工場で働いたほうが収入が安定することもある。登場していた主人公の弟はさっさと船に見切りをつけていたが、正解だったようだ。主人公が「懸命に働いても報われないのはなぜだ。」と嘆いていたが、当然と言えば当然のこと。変化が急だったのだろう。より高性能の大型船に敵わない時代が来ただけ。

経済成長時期に、日本の各地で繰り広げられたであろう悲喜劇を、実に手馴れた手法で描いた作品と思う。田舎育ちの人間には、何らかの感傷につながるものがある。思い切って転職し、就職した工場が今度は潰れたら・・・そんな悪い展開も少なくはなかったはずだから。

工場の昼休みの風景が凄い。中国かと見まがうばかりの労働者達の群れ。いっせいに食堂に向かう背中には、労働意欲、収入があることによる自信、誇り、安心、そんなものが感じられる。ちょうど炭鉱から出てきた集団のような、充実感と安心感と疲れが混じった雰囲気。

やはり職場が確保されていないと、人として夫としての誇りを保てない。求職中は不安感に苛まれるのが当然で、高額でなくても‘収入があるんだ’という安定感は、人の精神安定には必須のものと思う。仮に田舎で採算が取れなくなったら、どこか都会に移転する、もしくは転職する、そのような受け皿がないといかんともし難い。

経済変動に対処することの難しさ、変動が及ぼす庶民への影響の大きさを感じる。昔も今も、その点は同じ。円相場をとって考えても、貿易関係の企業の業績は大きく変動し、業種によっては一気に潰れる会社もあるだろう。経営者や学者でも予想できない変化がある。素人に予想は難しい。

中国に進出した町工場が、人件費や暴動などで経営破綻する例は結構あるらしい。状況の変化についていくのは難しい。シャープのような大企業だって急に厳しくなる時代だから、個人事業の場合は大海に揺れる木の葉のような不安定な存在。

アベノミクスで円安、株高になったかと思いきや、イタリアやスペインの政情で再び円高に急展開、アメリカの財政引き締めが明確になれば、また日本の景気は下り坂にならざるをえない。アベノミクスの成果が吹き飛んでしまう。そうなると、財政赤字だけが膨らんだ恰好になる。そうなっても、おそらく安倍総理らが責任をとって財産を売り払ってくれるはずはない。右往左往した人間が「なぜだ・・・」と呻くだけだろう。

 

 

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