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2013年7月28日

黒部の太陽(1968)

- 誇りの表現 -

黒4ダム建設において重要な決め手となるトンネル工事。そこに従事した関西電力と建設業者達の苦闘を描いた映画。石原裕次郎と三船敏郎の主演。最近リマスタリングされたらしく、DVDを鑑賞。

私の世代にとっての石原裕次郎は、刑事ドラマで苦みばしった表情を浮かべるボスのイメージ。中心になって活躍するのは渡哲也。裕次郎が若手として工事に挑む役柄は想像できない。でも、ちゃんと魅力ある人物像を演じ切れていたと思う。迫力ある顔は対決の場面でも見せていなかったが、あれが彼流のキャラクターなんだろう。大声あげて、派手な立ち回りをするばかりがヒーローではないから。

三船敏郎の演技は、黒澤映画の時とはかなり違う。この作品のほうが表情が自然で、よりリアルな印象を受ける。演技臭くない芝居ぶりで好感を持った。ラスト近く、悲しい電報とトンネルの開通行事が重なるシーンでは、泣きすぎるような過剰な演出をせず、感情を抑えた本当の人物がしそうな話を、しかも感情表現しながらやっていて、実に上手いなと感心した。こんな映画では演技のしすぎは良くない。

Ishiharapro

唯一、演技をしすぎて良いのは岩岡組の社長役の辰巳柳太郎だったと思う。ヤクザ映画の親分役の個性で無茶苦茶やれば良い。これも素晴らしい個性だった。大きな事業をやる場合は、正しいかどうかよりも、彼のような強烈さが必要になる。後で間違いと判明するとしても、人を動かして仕事をやり遂げることが優先される場合は、彼のような個性の出番である。

それは戦争の時期がそうで、どこでもずっとそうではいけない。例えば、京都府立医大のディオバンの評価データに捏造が疑われる事件。大きな試験を企画し、医局員や関連病院を動員してデータを集め論文を作る、その中でデータが出そうにないということになったら困る。そこで強引に論文を作り上げざるをえないと考えるかどうか、その辺が大きな境目になる。

もし報道通りの捏造なら、医局員の中には命令に従わない者も出る。捏造を批判するばかりか、誰かに漏らそうとする人物も当然出てくる。それらを脅し、なだめ、騙し、何かのポストなどで動かして、上手くまとめる必要がある違いない。

ディオバンに関しては結論が未だ出ていない。実は本当に論文通りで、特有な臓器保護作用がないとも限らない。教授の結論が本当に間違っていたという証拠は今の時点ではない。ノバルティスファーマの社員がデータを管理した点は明らかに常識を外れていたが、完全に捏造されたかどうかは闇の中。

アベノミクスもそうかも。日銀を動かすという禁じ手に近いことをやって円安に誘導したと思えるが、投資家の期待を集め、株価が上がり・・・しかし物価と国債金利上昇、財政悪化、またしても無駄な予算の使い方が明らかになり、消費税は上げないといけない、新しい雇用は創出できない・・・まあ、バケの皮が剥がれ支持を失う可能性はある。アメリカの景気次第だ。

でも、参院選挙を見たら、国民の審判はアベノミクスに賭けるという結果。民主党や維新の会がこけたせいもあるが、正しくなくてもいいから賭けてみたい、危険で無茶でもいいから何か試し、熱に浮かされてみたい、そんな意識が感じられる。我々の伝統だろう。先の大戦の前もそうだったようだから。岩岡組の組長のような人物には支持が集まるのである。

支持が集まる・・・と言うより、根強いのかもしれない。商売っ気の多い人は、アベノミクスのような政策は好ましい。給与の安定が好きな組合員の勢力とは、好景気への期待の仕方が微妙に違う。今回は組合員が強力に支持できる政治勢力がなかった。投票率が下がり、根強い支持母体を持つほうが勝ち残ったのだろう。

さて工事だが、結局は岩岡組流の突貫精神ではなく、シールド工法などの技術の導入こそが成否を決した形だが、そのような戦略的転換は嫌がられるのが常。安上がりの工法で速やかに成功したら確かに良いことだから賞賛されるのも当然だが、面倒な対策を怠った結果は、甘受するしかないだろう。

この映画の魅力は、取りつかれたかのように仕事に邁進する人達の感情の表現。現場の迫力の再現が見事だった。危険な仕事に、あんなにまで賭けることができた理由は、たぶん金だけではないだろう。もちろん給料の良い仕事があることは大事だが、難工事であり、達成されたら世に誇れることと、おそらく遠因としては大戦で失った誇りの回復、そんなものもあったのでは?

今だと、スカイツリーの建設にも、そんな誇りが関係しているのかもしれない。私としては無理に高い建物を作るより、現実的な高さで複数建てたほうが危機管理のために良い気がするが、世界一、最新技術、途方もない規模、斬新なデザインなどには建築屋達の血が騒ぐのだろう。プレゼン効果も期待できる。でもテロでどこかを爆破されたら、大変だと思う。

作品では少し演出過剰な部分も気になった。裕次郎のアップのシーンは多いし、やや冗長な場面も多く、スリルの盛り上げに長けたハリウッド映画とは娯楽作品としての完成度に開きを感じる。日本流なのであろう。今の子供達が観ると、ちょっとクドイ印象を受けるかもしれない。恋人と観る映画としても、やはり時代を超越するまでの魅力はないかも。

あれだけの事業なんで、叙事詩のように描いても良くなかったろうか?ヒーローを際立たせず、次々と仲間が死に行く乾いた視点で作品を貫き、人物が批判を浴びてボロボロになる様を冷徹に描くこともできたはず。裕次郎さえ小さい人間に見えるような、そんな描き方は実験的すぎるだろうか?

できれば、裕次郎氏には泣いて欲しかった。号泣すれば、この作品の価値は間違いなく上がったはず。笑顔など欲しくないし、ラスト近くで一人残って掘削するヒーローなんて、リアルではない。

水が押し寄せてきて人間が流されるシーンは、おそらく計画よりも水量が多すぎて失敗し、リアルさを通り越してしまったように見える。確か、俳優達の多くが怪我してしまったと聞いている。撮影で死者が出たかどうかは知らないが、出ていてもおかしくない。

トンネルのシーンは、熊谷組の試験場のような場所で撮影されたそうだ。凄まじい予算を要したに違いない。もう実際のトンネルとしか思えない。やがて石原プロの経営が傾く直接の原因だとは言えないだろうが、かなり無茶な企画だったことは明白。建設も撮影も命がけだ。私としては、巨額の費用をかけてリアルな映画を作ってくれたことに感謝したいが。

黒4ダムが難工事の末に作られた話は聞いていたが、さらに第3ダムはもっと多くの犠牲者を出していることは知らなかった。戦前に作られていたことすら知らなかった。岩岡組は、この作品ではヒーローだったが、第3ダムでは悪魔のような存在だったに違いない。軍のせいだけにはできないと思う。

黒4建設当時、既に関門海峡トンネルは開通していたはずで、いかに水の流出があるとしても海底トンネルより安然なような気がしていたが、映画を観ると恐怖の度合いが解ってきた。そう言えば、高森町と高千穂を結ぼうとしていた鉄道用トンネルが、湧水量が多すぎて結局中止になった。水を止められなければ、工事は不可能だ。

シールド工法などの技術の導入は、関西電力の社長が熊谷組を説得してできたように描かれていたが、おそらく工費が見積もりと合致しないので、新しい技術の導入に電力側が了解しなかった点もあったのでは?熊谷組は別な工法のほうが安全だと知っていただろう。社長同士の交渉は、関西電力が見積もりの修正を飲んだだけ、何も美談ではなかったのかも。見方を替えるとそうなるが、真相はどうだろうか?

今とは機械にも違いはあったはずだが、映像で見た掘削機械は私には非常に大掛りに見えた。でも、コンクリートではなく鉄骨と丸太が中心の内部補強は、さすがに旧式すぎる。ちょっとした湧水にも対処は無理なように思えた。当時は仕方なかったのだろうか?

例えば、ボーリングの向きを横にして、パイロット掘削を四方八方やっておくのは難しいのだろうか?試験掘削の穴には片端から樹脂かコンクリを注入していけばいい。ドリルの抵抗で、自動的に地質が評価できる。でも素人考えなので解らない。横向きのボーリングは器材が曲がってしまうのか?運任せで掘るより、試験掘削で進路の地質を確認しながらのほうが安全だと思うが。

最近の海底トンネル工事は、掘削しながら直接トンネルを作っていくような、ほとんど自動の機械のような方法らしい。九州山地に作られたトンネルも、最近のものは水漏れの後がなかなか出てこない。二重三重の構造に最初からなっているらしい。今、黒4ダムを作るなら、漏水など起こさず、あっと言う間にできるかも。

国の事業と民間企業の差かもしれない。新幹線や国道関連の事業は、最新式の方式が使われるが、関西電力の場合は経営が大事なんで、工夫の命を犠牲にして安く仕上げるほうを狙わざるをえないのかも。

わずか40-50年前に命をかけて作ったダムが、原子力発電への依存度が上がって無用の長物になりそうな時代もあった。耐用年数の問題もあるので、今後ダムをどうして行くのか難しい。25年参院選挙で自民党が大勝したから、おそらく原発のかなりは再稼動されるだろう。ダムに予算は回らないかも。太陽光発電や風力発電は新しい建設もありうるが、ダムはどうだろうか?

 

 

 

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