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2013年5月 2日

リンカーン(2012)

20cfox

- 高級な交渉ドラマ -

南北戦争の終結が近づいた頃、憲法修正案を巡ってリンカーンは劣勢だった。このままでは終戦後に奴隷制度が残ってしまう。彼は工作を図る・・・

・・・・エイブラハム・リンカーンは歴代大統領の中でも常にトップ級の人気を持つが、伝記に出てくる程度の知識しかなiい。丸太小屋で育ったこと、若い頃は血気盛んで論争では激しく相手を罵倒したらしいこと、演説での印象的なセリフ、そして暗殺。その程度。

映画で問題だった憲法修正案の意義もよく知らなかった。開放宣言と戦勝だけで奴隷問題は解決したかのような認識をしていた。映画のセリフで始めて知ったが、戦争が終わっても奴隷解放を州が受け入れなければ、その州は制度を変える義務がないとは!

連邦制度独特の不思議な現象。集権的な国の住人には解りにくい。憲法修正は、重大な意義を持ったものであることが解った。観ていた私も、法案を通すべきだと理解できたくらいだから、映画に説得力があったということ。

作品は高級感漂うドラマだった。しかし、少し盛り上がりには欠ける印象も受けた。法廷ドラマと同じ演説や交渉、密室内の会話だけでは、盛り上げようにも限界がある。戦場が主体でないからアクションも少ない。良い作品ではあったが、静かなドラマに留まったと感じた。若い頃からの彼を描かないと、偉大さの片鱗しか感じられないと思う。

古い名画の持つ‘味’のようなものも特に感じられなかったと思う。スピルバーグ作品はどれも完成度が高いが、心象的な部分に独特の感性の特徴があるようで、監督の失読症のせいか知らないが、味の違いを感じる。出来栄えに感心しても、感涙する映画が意外に少ない。

映画の冒頭、一般の兵士達が口々にリンカーンの演説を暗誦するシーンがあった。感動的ではあったが、皆が正確にスピーチを覚えているはずはない。リアルさの点では全くいただけない話。他の脚本、演出方法があったのでないか?

交渉が中心のドラマだから、子供には楽しくないはず。小学校高学年以降なら、教育上は良い内容かと思うが、少なくとも大半の子供は退屈しそう。恋人と観る作品としてどうか解らないが、高級な感じは受けるので良いかも。正直、この作品は後でゆっくりDVDで鑑賞するくらいで十分な気もした。スクリーンの迫力は必要ない。

ラストシーンを見逃してしまった。ちょうど患者さんが亡くなって呼ばれたからだ。観た範囲で印象を述べているにすぎないが、たぶん静かなラストを迎えたのでは?まさか、ラストで急にアクション映画に変わったはずはないと思う。

主演男優賞を取ったダニエル・ディー=ルイスの演技は、実に見事。メイク効果もあったと思うが、リンカーンもそうだったとしか思えないくらいサマになっていた。

リンカーンが斧をふるって吸血鬼と戦う映画もあるようだが、まだ拝見していない。実際のリンカーンも大男で斧の使い手だったそうだから、相当な腕力があったに違いない。写真の顔をみると、巨人症に見えなくもない。迫力があったろう。

トミー・リー・ジョーンズが演じた急進派の政治家は全く知らない人物だったが、彼とリンカーンとの交渉が面白い。節度を保ちながら、相容れないと思える相手を説得していく姿に敬意を覚えざるを得ない。

仲間が足を引っ張ることも多い。方針をめぐって意見が分かれ、組織が分裂するのは常。停戦交渉をするかしないかで、ホワイトハウス内部に亀裂が生じる話も興味深かった。我々に秘密にしていたのか!と怒って、そのまま仕事を投げ出す人物だっている。再び信頼を勝ち得ていくまでのリンカーンの言動は、感動を覚えるものだった。ただし、いかなる説得も通用しない相手はいるので、スタッフ側の人格が優れていた面はあると思う。

風貌も大事だったのかもしれない。若い頃はヒゲをはやしていなかったが、支持者の女性から勧められて威厳を出すために生やしたという伝記のくだりを覚えている。それに年齢と体格、声の力などが迫力を生んだに違いない。それを上手く再現していた。

説得と交渉の術が表現されていた。譲ってばかりいる私にはできない芸当。いっぽうで、いっさいの譲歩をしないで、子供を人質に家庭内脅迫をするどこかの奥様にもできない芸当。譲歩したり、頑として譲らず激しい口調で指示を出し対処していく・・・その手腕が素晴らしい。

長男が入隊するかどうかでリンカーンを悩ませていた。家族というのは、自分が足を引っ張っていることに気づかないものらしい。長男本人にとってみれば、自分が戦場に行かないのは不名誉なことだから、自分の誇りのために止めて欲しくない、それが最も重要なことに思えるだろう。だが、我々にとっては大統領の心痛を減らすことのほうが大事。長男がどう思われようと大したことではない。足を引っ張らないで欲しい。

うつ病だったと思える奥様だが、悪妻として有名ながら、この作品では結構活躍もしていた。ただ、自分の頭痛をネタに夫の足を引っ張る様子は描かれていて、実像に近いのかなと想像。我が家にも似たような御婦人を一名見かけるが、彼女らにとっては自分の悩みを解決しない夫は、役立たずの人でなしにすぎないのだろう。スキャンダルを自ら起こして、悲劇の主人公を味わいたがるほどの病状でなかったのは幸い。

私だろうと大統領だろうと変わりはないことに、安堵と諦めと誇りを感じざるを得ない。リンカーン、君はよく頑張った。私も君を見習い、君に続こう。

本当によく頑張ったものだと感心。意志が強く、粘り強い交渉力、説得力があったに違いない。でも彼が奴隷制度の廃止にこだわった理由は何だろうか?

おそらく理由のひとつは、制度に嫌悪感を抱く風土があったのだと思う。憲法の精神には独立、自由、権利の保障などの概念が強く、奴隷制度はそれに馴染まない。開拓者達は元々は家族単位で農園や商店を切り盛りしたのが基本の姿。おそらく、多数の国民が奴隷制度をこころよく思っていなかったと思う。

でも奥さんが奴隷を扱う家の出身だったくらいだから、リンカーンが若い頃から制度廃止を願っていたとは思えない。廃止を早くから訴えていたら、おそらく排斥されて議員になれないし、大統領候補になることもできなかったのでは?廃止を訴えるには、時期も大事。若い時期からテーマにするのはマズイ。

穿った観方になるが、政治的な必要性があって、政策として盛り込んでいったのだろうと思う。戦争する上での大義名分、欧州からの介入を避けるネタ、南部の支配層の力を削ぐための決定打、それらが元々の人権意識と合致した結果では?南部を攻撃するために、奴隷制度は良い材料になる。それを利用しない手はない。

もしそんな側面があったとしたら、でもそのために数十万人の命を失う大戦争をするとは、やはり理解を超えている。私の感覚では、戦争を避けて陰謀や交渉で南部の力を削ぎ、徐々に改善していくほうが、生命保護の面からは望ましいと感じる。おそらく穏健派はそう考えて、南部と交渉させたがっていたのでは?

でも政治では、対決を辞さない姿勢が要求されることもある。リンカーンが戦争を強いたとは言えないが、圧力をかけ包囲網を敷いて南部が戦争に訴えざるを得ない状況を作ったのは北部側だと思う。ヤンキーの伝統、常套手段だ。日本に対しても、同様の圧力で成果を挙げている。圧力をかけた結果、多数の人命を失った責任がないとは言えない。

南北対立は昔からあったそうなので、リンカーンの行動はやむをえないものだったのかも。対立の詳しい内容は知らないが、南部の富裕層が連邦議会を牛耳ると、北部の利益が損なわれる。農園は基盤が安定している。北部資本の進出が阻まれ、北部の発展に必要な施策に繰り返し反対されたら、戦闘に訴えても不思議ではない。経済的対立が、ついに戦争という結果となったとも思える。

奴隷制によって強固な基盤を持つ南部の富裕層は、おそらく議会対策もしっかりやったことだろう。たぶん、富裕層同士が連携して政治会派を作り、北部財閥資本の工作を撥ね退けていたのでは?頑固な会派との交渉の場合、徐々に改善を狙うのは現実的ではないので、戦争は最初から避けられないものとなり、リンカーンだけのせいではなくなる。

現在の民主党と共和党のイメージでは、共和党が小さな政府を目指し、富裕層の利益を代表する側。でも発足当時は、逆に北部が地盤で南部の富裕層が敵。互いが支持層を奪い合い、取り込みながら政策を修正した過程で、地盤も政策も交錯してしまったように見受けられる。石油や自動車産業の発展、労働運動によって覇権が変化し、その動きに政党の戦略が連動した結果のように見える。

発足当時の共和党議員たちが、奴隷制度など本当はどうでもいいが、戦争に勝利し南部の農場主を壊滅し、自分らの政治的基盤を磐石にするために行動していたら・・・政治家達のやることだから、ありえない話ではない。人命は気にせず、大義名分をこしらえて勝利することのみ考える。そうしないと敗北が待っているなら、そうせざるを得ない。

近年の大統領選挙でも、ティーパーティー、移民層や貧困層、各種の教会勢力、自動車産業、労働組合などなど、様々な勢力との利害調整がさかんに行われている。支持層を広げるために候補者の公約がコロコロ変わって、整合性が取れなくなる事例もある。

おそらく北部出身政治家の支持層からは、北部資本の発展に必要な法案を通せと要求されている。南部に好意的な態度を取ったら、直ぐに失脚させるぞと脅しをかけられる議員は多かったはず。リンカーンとて選挙に関しては例外ではない。民主政治では支持層をいかに取り込むかが重要で、勢力ごとの綱引き、利害調整によって方針が決まるのは仕方ない。

数十万人の命を懸けるからには、単なる人道主義だけの争いとは考えにくい。抜き差しならない対立があったはず。党利党略で戦争、奴隷解放宣言、憲法修正の流れになってしまったのなら、我々がリンカーンに持つイメージは、その戦略の結果になる。単に北部資本の勝利であり、宣伝文句、攻撃材料がたまたま奴隷解放だっただけ。

ただ、もともと政治の歴史とはそういうものであり、なしえた結果は偉業には違いなく、彼の功績が色あせるものでもない。本当によく頑張ったと思う。

 

 

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