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2013年4月26日

ゼロ・ダーク・サーティー(2012)

Ctmg

- ビグロー節 -

ウサマ・ビン・ラディンを追うCIA捜査官達は、拷問や買収、盗聴などによって捜査を進めるがテロは頻発。仲間も犠牲になる。やっと潜伏先らしき建物を特定したが、攻撃の許可が降りない・・・

・・・実際の作戦をかなり忠実に再現したのだそうで、記録映画並みのリアルな映画だった。娯楽性をかなり犠牲にしてでもリアルさにこだわったと感じたが、そのせいでテーマに曖昧さを残したかも。でも、リアルさだけでも一見の価値がある作品と思う。殺しのプロ、国家によるテロのプロと言えるCIAやシールズ部隊の活動を、臨場感たっぷりに観ることができた印象。

潜伏先に突入するシーンは、上の画像のように普通に写す場合と、兵士の暗視野スコープをそのまま映像化したような撮影方法が混じって、表現方法が的確。暗がりでも何をやっているか鮮明に判るし、自分が兵隊になったかのような気分になる。しかも爆破失敗、ヘリ墜落といったミスをそのまま冷静に映し出しているので、実にリアル。

ビグロー監督の前作、「ハート・ロッカー」では、狙撃のために照準をあてたままの長いシーンがあった。実際の兵士のようにひたすら待つジリジリした時間だったが、あんな演出は珍しい。映画では観客を退屈させるのは怖い。普通はドラマチックな変化を演出する監督が多いと思う。有名俳優が突撃して作戦を成功に導くパターンは、観客動員を考えるとやりたくなるが、監督はそれを避けているようだ。

ビグロー監督独特の色。ビグロー節を考えているに違いない。独特な味がなければ、監督への依頼が来るはずがない。観客も興味を抱いてくれない。特色を持つことは必要で、ビグロー監督の場合は、不必要なほどの描写による臨場感か。

子供にはまったく向かない作品。陰惨な拷問シーンや、無慈悲な殺害シーンがたっぷり出てくる。おそらくR指定が付いていたと思う。恋人と観るような作品でもない。恋に関係するシーンはなかった。でもアメリカ人達は、きっと老若男女、恋人も幼児達も喜んで観る。米国人にとって最大の憎しみの対象であるビン・ラディンを始末した話だから、拍手喝采のラストとなったのでは?国歌の合唱があってもおかしくない。

イスラム圏では、この作品は許容されないだろう。描き方として、かなり公平に描こうと努力をしていると思うのだが、テーマから考えて無理。上映しようとは考えないだろう。もし、イスラム圏に近い地域で上映したら、テロの恰好の標的となる。

潜伏先の襲撃では、女性の被害者も複数出ていた。いたずらに刺激を与えたくなければ、例えば殺害を声だけで表現することもありえたと思うのだが、血を流すシーンも詳細に写していた。アメリカ兵が女子供に優しいヒーローではないことを写していることは評価すべきと思う。ただ、もっと殴る蹴るやっていてもおかしくない。家族を殺されたら、狂ったように叫ぶ女性達も多かったのでは?彼女らを黙らせるために、脅しが必要のはず。銃口を向けたり体当たりくらいはやったろう。

問題の拷問シーン。かなり長い時間を割いていた。事実として報道されているから、描かないで曖昧にしたら作品のレベルを下げてしまう。陰湿で執拗な非人間性を充分に表現したシーンだった。正視に堪えられない観客のために、声だけのシーンを増やしたり、他の工夫がなかったのかと考えたが、技巧に走るとリアルさが損なわれて、元も子もないかもしれない。

途中で情報を聞き出すために芝居をうつシーンがあったが、痛めつけられていたはずの容疑者が、顔の腫れもかなり引いて普通に座っていられた点が気になった。ものを食べようにも歯がない、唇が切れて飲めないくらいが実際では?歯があると自殺するから抜くと思う。パクパク食べていたのはおかしい。尋問官が顔を見せるということは、拘束者が確実に殺されるということを意味するので、必ず顔は隠すと思う。

ヒロインを演じていたジェシカ・チャスティンという女優さんは、スリムで頬のこけた風貌が印象的。「ツリー・オブ・ライフ」では、主人公の母親役としてセリフをほとんど発さない不思議なキャラクターを演じて印象的だった。異常なほど相手を見つめる表情が迫力を生んでいる。

今回の役には確かに最適な女優。妙な色気や、目立ち過ぎた声の出し方、名女優ぶった大仰な演技を見せられたら、作品自体が噓くさくなってしまったろう。リアルさを追求する方針に、骨ばった顔つきや、病的で神経質そうな表情が最適だった。

その他の俳優達は、あんまり目だっていない印象を受けたが、逆に言うと端役に至るまでリアルさが徹底し、あんまりドラマ風に演じていなかったからだろう。わずかに現地の局長役や兵士達のセリフが、ドラマの延長の雰囲気が残っていただけか?盛り上がり方に関して言えば、今までの戦争映画のほうがスリリングだったかも。

ラストが大事だったと思う。作戦成功で歓喜のまま終わるか、淡々と任務終了し静かに終わるか、そして本作のようにヒロインの涙で終わるか。歓喜の終わり方では、いかにもレベルの低い戦争映画の演出。任務を終了したこと、仲間の死、極度の緊張関係が続き解決の道筋が見えないことなど、まさに万感の想いがあることを表現した涙のシーンだったように思う。

個人的には、号泣するほうが良かったように思った。クールなヒロインが仲間の死で感情的になる、作戦決行を迷う上層部に鬼気迫る上申をする、そして作戦が成功し、歓喜の兵士の中でひとり号泣、そんな感情の爆発を見せてもらうと、より状況を表せたかもしれないと思った。下手すれば、安っぽくなってしまうかもしれないが。

作戦が失敗していたら、パネッタ長官も含め、大勢のスタッフの責任が問われたと思う。だから長官も厳しい態度を見せるほうが自然。ヒロインを脅したっていいくらい。良い顔を見せたのは何かの配慮が働いた演出で、やや疑問。ヒロイン以外のスタッフも笑うというより、緊張がとれて泣き出すくらいが自然ではと思った。

実際の拷問は、どれくらいの数が行われていたのだろうか?相手は自爆テロをするくらいだから、話すくらいなら自殺した例も多かったはずだし、見せしめで殺して隠匿したケースもあったと思うので、凄い数だったかもしれない。殺害や自殺も含めた通算では数千人の単位だったかも。

電話の盗聴を技術的にどうやるのか解らないが、電話局に脅しをかければ可能なのだろうか?もしくは電話局職員をワイロで懐柔する?親米地域なら可能としても、パキスタン全土で盗聴が可能なのだろうか?携帯電話の傍受も、電話会社を支配すれば可能だと思う。デジタル通話なら、例えば日本の通話を総て把握し、「CIA」「爆弾」のようなキーワードで検索をかけて容疑者を特定していくことも可能のはず。でも、イスラム圏でもできるのだろうか?

携帯電話を使いながら車で移動を続ける連絡員は、テロリスト側にも工夫があることの例だろう。通話の場所を固定したら、直ぐに捕まってしまうことを学んでいるはず。上空からの偵察機にも見えないように植物の葉を茂らせる、迷路のような建物を作るといった工夫も、当然ながらやっていたようだ。

不思議なのは、10年も捕まらないで隠れていたこと。CIAが必死で探すことは間違いないから工夫もしたのだろうが、部下と連絡しないわけにはいかないだろうし、食料品や家族が生きていくための物の購入など、金の動きもないはずはない。部下達の裏切りが少なかったことが、潜伏を長くできた理由のはずだ。

逆に言えば、極めて優秀な部下達に囲まれた存在であっても、そうでもない末端の部下の誰かによって情報が漏れることで、徐々に包囲が狭まくなってしまうのも現実。逃走に成功するためには、おそらく米国と敵対する国にかくまわれる以外に道はなかったと思う。イランや北朝鮮がそんな存在だが、イランとてわざわざ攻撃材料となる貧乏くじを引きたくはないだろうから、やがての帰結は最初から決まっていた。

こんな作品を観れば、テロリスト達はさらに学んで、作戦を解りにくくするだろう。まず、家族に電話するなという鉄則は学ぶと思う。戦士になったからには、家族との連絡は厳禁であることは初歩的ルール。それに、そもそも携帯やメールの類は監視されているから、これも原則使用禁止だろう。

犯行声明、首謀者の顔写真の提示、ビデオ撮影も禁止すべき。ビン・ラディンがそもそもビデオに出て犯行を誇ることが失敗。宣伝も重要だが、首謀者を特定できないようにすることも原則。大きな作戦の場合は、名誉を捨ててとぼけ続ける覚悟が必要。資料も捨てて、証拠がない状態にしないといけないと思う。大きな作戦を終えたら引退して、一般人として生きても良いのでは?

テロリストになるからには、最初から偽名を使う必要もあると思う。家族関係などから足がつきやすいのは解りきったこと。マフィアなど犯罪組織の手口を参考にすべきである。

米国の兵士や旧日本軍にも、極悪非道な戦争犯罪人が多数いたと思う。かなりは処罰されたろうが、捕まらなかった人物もいたはず。仲間うちの団結が強く、犠牲者を皆殺しにして証拠もない場合は捕まえようがない。でも、潜伏は戦争犯罪の証拠隠滅よりずっと難しい。ビン・ラディンたちは充分長く持った。

イスラム勢力は米国の支配を脅かす存在だが、彼らが米国に強い敵対意識を持つ理由が、いまひとつ自分には理解できない。聖地を汚した、イスラム的生き方と相容れない文化、金と兵力で覇権を握っている、石油の利権を事実上握っている、イスラエルを援助している、それらは解るが、長年の対立で肉親を殺されたりして怨念が積もっていることが、理屈を越えた敵意になっているのでは?

戦いが長くなると、戦いだした理由よりも肉親や友人の敵としての憎悪のほうが増してくるものらしい。金で釣ってもなびかないほどの憎悪に、信仰心から来る頑迷さが加われば、もうテロリスト。仮に数十万人のテロリストが数百年にわたって米国を標的にしたら、さすがの超大国も傾くような気がする。

古代ローマの軍事的覇権でさえ、やがて崩壊している。科学技術も諜報能力も、兵力も資金も圧倒的なローマ帝国でさえ崩壊したのだから、アメリカの内部崩壊もありえる。例えば、治安の悪化によって資産が海外に移転すると、国を守る意欲と資金が損なわれる。アメリカの場合は既にイスラム圏からの移住者が多数いるので、結局は人種対立を管理しきれなくなるかも。

先日はチェチェン出身の兄弟がボストンでテロをやったらしい。アルカイダ以外の組織や、今回のような単独犯の攻撃は防ぐのは難しい。もし身の回りでテロが起こったら、こんな風にのんびりと批評なんぞできなくなる。私も目を血走らせて復讐しようと考えるだろう。終わりなき戦いになってしまう。

 

 

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