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2013年3月20日

裏切りのサーカス(2011)

Studiocanaletc 

- 静か過ぎるスパイ劇 ー

イギリス諜報部(通称サーカス)のボスが引退した。作戦に失敗したからだ。内部にソ連側の内通者がいて、ワナにはまったと思われる。一度は組織を引退した主人公だったが、裏切り者を探すことになる・・・・

・・・・実に静かな映画。若い人には退屈だったろう。昔のフランス映画なら、こんな作り方もクールで良かったかも知れないが、今はフィルムノワール風の演出は危険を伴う。理解できない人には拒否反応が出そう。この作品は熊本では上映されなかったようだ。理由が解る気がする。

製作にはフランス系らしい「スタジオ・カナル」が参画しているそうで、雰囲気にも関係しているというのは考え過ぎだろうか?

サスペンスを維持するためには、定期的に敵味方が死なないといけない。最初はボスの指令でハンガリーに向かった工作員。次は主人公の部下の一人。または重要な情報を持つ情報屋、そして敵と思っていた人物、どこかで派手な爆発かむごい暗殺、そんな風に恐怖の盛り上げるのが原則だと思う。

裏切り者を探す方法が実に大人しく、緻密で、そこは非常にリアルだった。おそらく実際に調査する場合も、領収書やちょっとした記録などを丹念に洗い、敵の動きを把握するのだろう。銃をぶっ放して脅したりするのは、必要に迫られた場合だけ。

そう言えば、誰が何を指示し何が決定されたかの記録を残さなかった菅総理の時の官邸スタッフは、英国の諜報部を持ってしても何をやったか、誰が黒幕で誰がミスったか判定不能の凄い連中だった。記録を残さないのも大事・・・・で良いわけないが。

この作品は充分怖かったとは思う。後半は特に盛り上がっていた。でも前半、主人公がすることもなく、仕事を失って呆然とする様子が丁寧に描かれていたことが裏目に出ていた印象。退屈な雰囲気が出てしまった。主人公のボンヤリぶりと、組織内部での激しい戦いが交互に描かれたほうが良かった。

敵に無残に殺されるシーンがリアルに描かれていたので、この作品はR15指定だったようだが、確かに子供に見せるのは勧められない。ビデオ屋さんに普通に並んでいるのも良くない。また、恋人とこんな作品を観て楽しいと私は思わない。好きな人もいるかも知れないが、気分が悪くなる娘もいるだろう。古い映画好きな人が、ひとり静かに観るタイプの映画だと思う。

組織のパーティー会場の風景は良い演出だった。繰り返し過ぎた印象もあるが、2~3回程度なら、真相に迫る場合に効果的。よく見る手法だが、今回もとても印象的。

4人の幹部の誰が二重スパイなのか?それぞれの個性が際立ち、誰もが怪しい、いったい誰が・・・そんな謎解きが二転三転すると傑作になる。この作品も傑作に近いと思った。まず幹部に仇名をつけたのが良かった。

ティンカー(鍵屋)は、新しい組織のボスに就任した小男、テイラー(仕立て屋)は色男、ソルジャーは迫力のある大男、プアマンは元のボスに拾われた男、そして主人公はベガマン(乞食)。主人公自身も疑われていたことを知るというのが常道の流れだ。この仇名が、そのまま原作のタイトルになっているそうだが、上手いアイディアだった。

ホモセクシャルな関係が複数出てきたようだったが、作品にとって必要だったか判らない。ラストで自分を銃撃させるシーンは悲しかったから、その意味はあったと思うが、ストイックに仕事していた人物同士でないと、悲しみは限定される。

あちらではホモはごく一般のことなんだろうか?毛むくじゃらだろう欧州人同士にセクシーな感情が生まれるのは理解できないが、あちらはあちらで私のような男は絶対に嫌だろうから、あんまり文句は言えない。

美しいロシア人の女優が敵側の人妻を演じてて印象的だった。あれがロシヤ風肥満体のオバサンだったら話にならない。薄幸の美女と工作員が恋に落ちるストーリーでないと盛り上がらない。

欧米諸国の中には、実際に二重スパイだった人間は多かったらしい。ゾルゲ事件でもそうだったように、高学歴で優秀な人材の中には、理想に燃えて共産主義に走った人もいたと思う。おそらくだが戦前は、理想肌の人間は軍国主義か共産主義にかぶれたはず。戦前の資本主義(形式上の民主主義)を信じるなど、まさに民衆を抑圧する金の亡者としか思えなかったろう。西欧諸国が富を占有しておかしいと思わないはずがない。

富の独占や非合理を恥じる人は西欧の知識人にもいたはずだ。経済学ではマルクス派が大きなウェイトを占めていたはず。それなら、いっそ西欧も共産化すべきといった考えも成り立つ。覇権主義が目立たなければ、ソ連は理想郷と思えたかも知れない。そこに命を賭ける・・・そんな憧れもあったかも。

だから、優秀で忠実と思われた人物が意外な犯人という展開はおかしくない。それこそ、主人公が最も怪しいとさえ思う。ストーリーの権利上の問題がなければ、部下が調査した結果、主人公が黒幕だったと判明するという展開も別に不思議ではなかった。ラストで観客を驚かせる展開にはなったろう。

解らないのは、当時ロシア人が入国するのは非常に難しかったはずで、スパイが連絡するのも簡単にはいかなかったはず。英国側のスパイとの連絡は、速やかには出来ないだろう。速やかにやれば、情報の管理具合から直ぐに人物を特定されてしまう。

だから末端のスパイがどうなるかは気にせず、情報部中枢の大物スパイの保全を最優先して、速やかには動かない方針がソ連側としては正しかったはず。ストーリーの上では、多少の無理があった。

 

 

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