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2010年10月 6日

ハート・ロッカー(2010)

- 「アバター」殺し -

イラク戦争で爆弾処理班として活動するグループの物語。隊員の一人は精神的に参っている。爆死した班長の後任は勇敢だが向こう見ずの男。防護マスクや通信を面倒がり、仲間はヒヤヒヤする。砂漠の中で銃撃された事件のあと、仲間意識が芽生えたかに思えたが、新たな任務でまたも新任の暴走が始まる・・・

この作品は「アバター」を寄せ付けずにアカデミー賞を取ったが、観終わって本当かいな?と、思った。この映画が将来どのような評価を受けるかといえば、「アバター」にアカデミー賞を取らせなかった映画として記憶されるだけかも。

駄作ではない。緊張感が続き、現場の雰囲気がひしひしと伝わってくるような、非常に上手い話だった。冒頭で班長が爆死するシーンは振動を上手く表現して迫力があったが、いかんせん爆発して舞い上がった砂埃からの距離がありすぎて、まさか死ぬとは思えないように見えた。

実際に爆発で死ぬ場合は、小石などで服がボロボロになっているはずでは?死体に影響したのが爆風の衝撃のみで傷が全くない、なんてことは考えにくい。

あれこそアバター流のCGを使って、爆風に完全に飲み込まれてしまうように見せるべきだった。いかに吹き飛ばされたように見せかけても、周りの石などがタイミングを合わせて動いていなければ、人間だけ飛んでいておかしいと、直ぐに感じてしまう。無理があった。

ハート・ロッカーのタイトルの意味がよく解らなかったが、ハートは心臓のheartではなくhurtで、ロッカーもrockerではなくlocker。辞書で見たら、アメリカ軍の隠語で、追い詰められた極限状態や棺おけを意味するらしい。ロッカーに閉じ込められて逃げられないような感覚、なんとなく解る気がする。

家族で観ることをお勧めできるかと言えば、せっかくの作品賞映画なのに、あんまり勧められるとは言えない。子供用の映画ではないし、楽しいシーンがないからだ。恋人と観るために選ぶ作品とも思えない。基本的には、アメリカ人が観るための映画か?

ドラマの部分は素晴らしい。特に仲間うちでの対立で見せる表情はリアルだった。

砂漠の真ん中で敵襲を受けて反撃し、狙撃兵を退治していく長いシーンは緊張感があり、しかも難問を解決していく過程で兵士が見せる感情の変化を再現してくれた。長いシーンだったが、見ごたえはあった。

新任の班長役だが、理解はできなかった。彼を理解できなければ、作品も理解できない。電線を引っ張ったら、爆弾がたくさん出てきた・・・なんてシーンは、普通では考えにくい。時限式の爆弾だけとは限らないので、むやみに電線を引っ張ったりは絶対にできない。あんな処理屋は直ぐ死んでしまいそうだ。リアルでない。

本人も劇中で、どうして自分はこうなんだろう?と言っていたが、社会的に適応できない、戦場でしか生きられない異常者として描かれていたはず。なのに迫力を感じることができなかった。例えば「プラトーン」の悪役は、戦場では頼りになるものの犯罪者であり、リアルでなくても存在感があった。この作品の班長は悪役でもなく、ただ暴走するだけで印象深いとは思えない。

自分の娘に「お父さんが好きなのは、ただひとつ・・・」つまり戦場というセリフもあったが、そんな異常者を描くなら、もう少し迫力、凄みのようなものを演出すべきではなかったか?

暴走の被害にあった隊員は、もっと怒るべきだった。「殺してやる。」くらいは言いたいのでは?もっと激しい殴り合いはあってしかるべきだったし、軍事法廷に召喚されてもおかしくないかも。

この作品は戦争の最中に作られているので、作るだけでも勇気が要ったはずだ。軍関係者から何か圧力があったと思う。こんなのを上映されたら、軍隊に入りたくなくなる若者が増えてしまいそう。それを押し切って作るだけでも意義があったとは言える。空想映画の「アバター」がいかに素晴らしかろうとも、現実とは乖離しているから賞を与える意味は薄い。

でも個人的には、インパクトに差があり過ぎる。「アバター」は、完全に娯楽だけの映画に近いとは思うものの、作品の力の差は明らかでは?

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