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2010年5月18日

大統領の陰謀(1976)

- 健全かつタフ -

ウォーターゲート事件を報道した新聞記者達の活躍を描いたドキュメンタリータッチの作品。登場人物本人の原作を元に、ほぼ史実に忠実に作られているらしい。

内部から告発したディープ・スロートがFBI副長官のマーク・フェルドであったと最近公表されていたが、当時の行動は勇気の要ることだったろう。相手がギャングのような連中だから。今でもそうだ。

この作品はドキュメンタリータッチ、推理小説ばりの進行が素晴らしい。謎を解くようなスリルが味わえる。たぶん、若い人達にはフィクション的な作品、純粋な娯楽映画にしか見えないのではないか?そうだとしても、結構高いレベルの面白さがあると思う。

カーチェイスや殺人のシーンがないので、退屈する人も今は多いかも知れない。恋人と観る映画としては、やや大人びているかも。子供には退屈。

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主役の二人はもちろんだが、上司のジェイソン・ロバーズもカッコいい。腕っ節が強いというタイプではないが、精神的な強さを表現していた。裏付けにとことんこだわる点も、ただのガッツマンだけではない慎重さを表し、彼のような存在がなければ、主人公たちは自滅していたかもと感じさせる。熱血漢風のジャック・ウォーデンも雰囲気が出ている。

ダスティン・ホフマンとロバート・レッドフォードは当時の大スターだった。生き方に共感できるタイプの俳優で、スキャンダルが似合わない、生真面目な印象がある。その印象は、この種の作品には必要だった。

そもそも妨害や身の危険を覚悟で作品を作ろうとするのだから、真面目なはずだ。作るスタッフが国を愛し、憲法を尊重する精神の持ち主なんだろう。日本では、より現実的というか、馴れ合った関係が重視されるから、誰かが頑張って作ろうとしても、上司や友人達が邪魔をするに違いない。

実際の主人公達は、もっと脅しをかけて話を聞き出したのではないだろうか?偽証罪に訴えるぞと露骨に脅さない限り、簡単にはしゃべらないと思う。日本で同様の取材をしたら、神に誓うという習慣がないので直ぐにウソをつくだろう。そのほうが利口だ。罰則は大したことないのだから。

ウォーターゲート事件は私が中学生の頃だったので、ニュースで騒がれていたのを覚えているが、田中角栄の逮捕と比べれば衝撃は少なかった。でもアメリカ国民にとっては前代未聞の大スキャンダルだったろう。

感心したのは国の最高権力者を審査することができる仕組みが、さも当然のように活動していたことであった。日本でも検察官が頑張るのは頑張るが、政治的圧力、天下りに関係した取り引き、縁故関係などが足を引っ張ってウヤムヤで終わらせる傾向が強い。若手検察官を上役が抑え込むことが当然のごとくまかり通る。

明石市の警察副所長に対し、今年初めて検察委員会が検察に替わって訴追を始めたらしいが、政治家に対しては考えられなかった。よほどな証拠を残さない限り、灰色のまま逃げることが常だった。

特別捜査官に似た制度はあるらしいが、実効性がない。司法制度が情けないということは、つまり国に信頼をおけないということだ。

外務省の官僚が、大臣を選びながらアメリカとの密約を伝えていたというのは凄い話であるが、それがまかり通れば密約し放題だ。もう国会などは存在価値がない。なのに誰も処罰されていないようだ。罰則がないということか?時効なんてあるのか?

たぶん法律のレベルが低くて、立件処罰ができないのでは?

航空機購入の際の毎度の疑惑や、土地払い下げ、その他あらゆる疑惑のほとんどは本物だと思えるが、逮捕や辞任にはなかなか結びつかない。それでは若者に悪影響を与えてしまう。法律や制度に信頼をおけないとなると、真面目に生きていくのがバカらしくなるはずだ。

やり手の実業家が違法スレスレの行為を働くのは必ずしも悪いことではないと思うが、政治家も検察も財界もグルになった馴れ合いの中に入らないと出世できないような社会では、マトモな若者はしらける。若者が失望すれば、やがて社会全体が地盤沈下する。これは歴史が証明するところだ。

例えばの例が、兵隊が命をかけて戦えるのは、自分が戦いに意義を感じるからだが、守るほどの価値がない社会だと感じていたら、もう戦いにならない。経済的な戦い、開発競争、研究なども、無理して頑張れるかどうかは、懸けるだけの意義を感じるかどうかによる。健全な社会であることが、競争力の維持には必要だ。

憲法に忠実に生きるという生真面目な部分が残っているアメリカなら、まだ希望を持てる。

大統領辞任のわずか2年後に事件が映画化されるというのも凄い。日本では首相が逮捕されても、大きな映画がすぐ製作されることはない。関係者に同情する風潮が強い。日米、どちらが良いか解らない。大統領にも家族はいる。その中には事件には関係ないマトモな人もいるはずだ。

ただし、今後は新聞社が経営的に落ち込むと思えるが、するとジャーナリストの活躍は期待できなくなる。写真やビデオによって情報発信は簡単になったが、この種の捜査めいた仕事ができるのは新聞をおいて他にない。インターネットに客を取られたジャーナリズムは、汚職に対しては非力になるだろう。

大統領になり、政権を維持するためには、ギャングが必要なのは確かなようだ。ネガティヴ・キャンペーンは最近の大統領選でも激しかった。きっとデマを流したり、それこそ対立候補の封筒を使って怪文書を回したり、今もやっているに違いない。

インターネットを使ったキャンペーンは絶対に凄いだろう。相手を中傷、こじ付けてでも引っ張り落とそうとする策謀は、今でも凄まじいはずだ。盗聴はばれたら困るから最小限に止めるとしても、やってないとは思えない。

ニクソン自身の発言の仕方も、ほとんどヤクザそのもののようだ。事件で明らかになった録音テープには、修正が必要だったらしい。最近の作品、「フロスト×ニクソン」では、テープのような激しい言葉が再現されているらしい。

 

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