私の中のあなた(2009)
- タイトルに問題 -
白血病の姉の治療のためにドナーとして生まれてきた妹が、今後の自分の臓器提供を断るための訴訟を起こす。母親と法廷闘争することになるが・・・
そもそもの設定に疑問がある。HLAを合わせた子供を作ることが実際に可能かどうか、成長が間に合う時間的余裕があるかどうかなど。その点はフィクションかもしれない。
HLAタイプを合わせて卵子を選ぶことが実際に可能なのかは知らない。HLAタイピングのためには結構な量のDNA検体が必要だと思う。発達途中の受精卵からDNAを採取したら、たぶん細胞死、よくて奇形が発生するはず。フローサイトメトリーのような手技も、数個の卵子では難しいし、HLAを細胞ふりわけのマーカーにできるのか疑問。
でも、ドナーが兄弟であることは偶然にせよありえる。その場合、小さな子供から骨髄などを採取するのは、それだけで人道に反している。いかに兄弟愛があったとしても、姉の命のために不可欠だとしても、この映画のような設定は、そもそも人道に反する。妹は、いわば奴隷のような存在になると思う。
臓器提供には多くの問題がある。そのことを改めて感じた。特に、家族が長期間にわたって病気の子供にかかりきりになった場合、患者本人が精神的に耐えられないことが容易に想像できる。手技が進めば進むほど、長期間の延命が可能になり、家族の負担も増すという事態が起こる。いっそ自殺したいと考えるのが普通だ。
技術が進むことが、かえって精神的な問題を起こすことは確かにありえる。医療人も考えないといけない。
ただし、助かる命を救う手段があるのに、最初から何もしないというのも問題だ。手段がなければ悩むこともないが、あれば悩む。
家族の病気に際して、今後起こる全てを予想して対処するというのは難しいが、移植のような大きな一手では、それが必要になる。難しい決断を迫られる。
白血病や腎臓病など、小さな子供が重篤な病気になった時は正視に耐えられない。この映画ではラストまで患者の意識はあったが、ゼイゼイ息苦しそうで見るからに辛そうな状態になることのほうが多い。今の苦しみを何とかしてあげたい、でもそうすると長期的には患者を苦しめてしまう・・・そんな状況になる。
子供が苦しむということは、最悪の経験だ。娘が小学校時代に化膿性関節炎を起こした時は、恐怖の体験だった。もし敗血症になったら、後遺症を残したらなどと考えているとこちらまでおかしくなりそうだ。
近所の子供が幼くして亡くなったそうだが、親に「いままでありがとう」と言って死んだそうだ。聞いただけで泣けてくる。自分の子供にそのように言われるのは最大の不幸だろう。病気が白血病や小児の癌の場合は、想像もできないほどの心労だろう。
映像の美しさには感動。ラスト近くの海のシーンは、今までの様々な映画の海のシーンの中でも最高のレベルではないか?色彩、光の加減なども抜群に素晴らしかった。
難しいテーマながら、訴訟の対象でありながら、仲良く家族で暮らす姿が美しい。ちょっと不思議な状況だが、描き方は良かった。ただし、タイトルはいただけない。意味不明に感じる人が多いだろう。
この作品は、いちおう家族で観れると思う。恋人と観ることも勧める。
白血病の娘役は上手かったし、笑顔が良かったが、多少は演技に終わっている印象を受けた。その点、妹役のアビゲイル・ブレスリンは、リトル・ミス・サンシャインの子役だが、著しく成長している感じ。キルスティン・ダンストに似た顔。メロドラマでは無表情なほうが観客には自然に写るようだ。
母親役がキャメロン・ディアスというのは、通常ありえないキャスティングだったが、さすがに彼女も母親がふさわしい年齢になっているので仕方ないかも。アカデミー賞を狙ったのか?際立つ名演、はまり役とは思えなかった。きっと、意志が強そうで、愛情をも表現できる別な適役がいたに違いないのだが・・・