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2009年11月20日

グラン・トリノ(2008)

主演 クリント・イーストウッド

- 明らかに西部劇 -

朝鮮戦争の英雄にしてフォード工場の労働者、今は年金生活の老人が主人公。彼の家の隣に少数民族モン族の一家が引っ越してくる。その家には男の子が一人。大人しい性格で、不良集団ともめているところを主人公が助けた関係で親密になる。良い感情を持っていなかった主人公が、なぜか彼に男の生き方を講義し、仕事まで世話してやる。しかし、不良集団が仕返しをしてきた。主人公は彼らと対決する決心をする・・・

・・・これは傑作であった。涙をボロボロ流す感動巨編ではないが、余韻に浸れる作品。いろんな要素を兼ね備えた脚本の勝利だったと思う。小さい子供には向かないが、恋人と観るのにも悪くはない作品。レベルが高く、内容が高尚だから、デートの相手に不快感を与える心配はないと思う。

クリント・イーストウッドは、年齢的には老健施設に入っていてもおかしくないはずなのだが、節制しているのか、身のこなしや演技の際の表情などは全くぶれていない。クレバーな感じ。ただし、演技は臭すぎる。もっと自然に演じれば、さらに味わいが出ると思う。イーストウッド以外の俳優でも、迫力がある悪役俳優なら、この役は務まったはず。

イーストウッド演じる老人のキャラクター設定が素晴らしかった。頑固で偏屈、家族とも上手くやっていけない状況が実に自然に、ユーモラスに表現されていた。小道具としてお約束の犬も効果的だった。

この映画の脚本を書いた人達は、実際に工場で働いた経験があるそうだ。北米の自動車工場地帯の町には、この映画と同様の風景があると思う。フォードの工場は閉鎖され、トヨタの販売員になって生活するなんて話もありそうだ。車の作り方の戦略、商売のあり方、経営形態の問題などがあって、今のアメリカ車は競争力を失っている。誇りも傷つけられたことだろう。

車を作り、それを所有することと、ディーラーやトレーダーとしてリッチになって所有することでは、感覚的に違う。生産の喜び、誇りは、マネーゲームのような仕事では味わえないものだ。その辺の感情は日本人だけの特売ではない。歴史があれば、車作りにも同様の感情は発生すると思う。

民族の変化にも感情が揺れると思う。かって自動車工場で働いていた白人の仲間が徐々に黒人に変わり、やがて東洋人が多くなる。団地のように整然と並んでいた家が、徐々に古びていく。観ている老人達には複雑な感情が生まれることだろう。その感情を解説して絵になるのは老人である。若々しい人が自分の心情を話しても絵にならない。叙情性が生まれるのは、老人の想いが語られたからだ。

東洋人にも色々ある。普通の中国人は世界中にあふれているが、モン族という少数民族の場合は、特にベトナム戦争が絡んでいるので独特な存在だ。彼らに着目したのは、おそらく脚本家の実体験が何か関係しているのではないか?中国人では物語にはならない。沖縄の人達なら話になりうる。少数民族であることが大事だった。

人種差別的な言葉を吐いていた主人公が、いつの間にか異民族の少年に愛情を感じるようになるストーリー展開が素晴らしく自然だった。自分の家族に相手にされていないことが条件だったのかも知れない。家族の間が親密で心が通っているなら、異民族など入り込むスキはないと思う。少年側も情けない状況であることが必要な条件だった。

抜群の設定によって、美しい物語が生まれた。最後には対決のクライマックスまで用意され、まさに西部劇の伝統に従って忠実に構成されていることに気がつく。主演がイ-ストウッドだったから自然にそうなったのかも知れないが。

単なる対決の映画ではなく、人々を守るために主人公が悪と一人で戦うまでの手順、感情、いきさつがきっちり解説されていた。素晴らしいデキだった。

 

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