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2008年12月22日

チップス先生さようなら(1939)

- 英国かく戦えり -

イギリスの名門校に赴任したチッピング先生の物語。最初は生徒にからかわれ、好かれてもいなかった先生が、妻のアドバイスなどで人気者になり、次第に学校になくてはならない名物先生になっていく。最初の生徒の子供、孫の世代が入学してくるようになり、いったんは退職したチッピング先生であったが、意外にも再登場の機会が訪れる・・・。

単行本で原作を読んだ事がある。大変な感動作であった。 映画よりも小説のほうがよく感動が伝わるかも知れない。たくさんのエピソードがあったが、授業中のエピソードを様々な形でストーリーに織り込んでいた。印象に残る生徒達が次々と戦争で命を落としていくのだが、悲しい結果とおかしいエピソードが対照的で、語り口と翻訳の良さもあってか、全編に哀愁とユーモア精神が漂う雰囲気の良い作品だった。

確かにイギリス帝国史を読んでも 実にたくさんの青年たちが国の権益を守るための犠牲になっていたようだ。 現在のイギリスの繁栄は世界の各地で戦った兵士の死体と引き換えに得られたものなんだろう。

作品の中で、特にドイツ軍が爆弾を落とす中でも、ゲルマン人の行状をラテン語の授業で講義するくだりで、偶然にも現状と全く同じ表現が記載されているのを読んで 生徒の一人が「先生!これは今のドイツ軍と同じですね、すごいや。」と叫ぶ場面が印象に残っている。 映像でも少し出ていたが、観ていた人はガリア戦記の話をしているのだと気がついたろうか?

悲しいエピソードには 歴史的な戦争を勝ち抜いた老大国の悲哀といったものがあふれていたが、それがなんとも魅力的だった。 人生を長く生きた老人の心境もかくあるのかと思える。諦観~達観にも似た感覚が老人のチップス先生によって語られていたが、それがイギリス的感覚と共通するのが感じられた

今のイギリスは、かってのイギリス病が信じられないほど好景気だそうだ。日本より早めに政策転換できることと、やはり外交術などが比較にならないほど優れていること、EUの形成とオリンピックなどの好条件が重なっているのだろう。

主人公は晩婚であったが、利発な娘と結婚した。しかし、その娘は出産の時に亡くなってしまい、彼は天涯孤独の身となる。しかも、ほとんどの人は彼が結婚していたことさえ知らないほど年代が違ってしまう。悲しいエピソードだが、ちょっと笑える。

全体に、そのような調子で語られていた。映像でも、出世できなかった教師の人生が、暖かい眼で表現されていた。出世競争では負け犬とも言えるような人物だが、自分の祖父の代からの長い歴史に関わった人物として、皆から愛されていたことが伺えて、実に自然な表現だった。

映画では時間の関係もあってか、そんな話の全ては盛り込んでなかった。もしくはDVDになる時にカットされたのかも知れない。

学者肌の人間には、独特の可笑しさがある。何をするにしても、自分の専門を引き合いに出し、浮世離れしてピントが違うのである。アインシュタインのように有名な学者になれれば、そんな部分も魅力になるが、教師だと失笑を買ってしまう。

ただ、同じ失笑を買うにしても、好意的にとられることが多いのが教師の役得である。医者にも学者肌は多いが、やはり命に直結するために、皆から嫌な顔をされることが多い。時々、そんな顔をされていたドクターの意見が、実は先進的であったことに後で気がつくことがある。

医療現場の常識は、数年でガラッと変ってしまう。一生懸命消毒をしていたケガの治療が、実は消毒してはいけなかった、肺炎の時に解熱剤を頻繁に使っていたのが、あんまり熱を下げてはいけなかったなど、たくさんある。

曇りのない眼で人の意見を判断しないと、後で後悔することになりかねない。

チップス先生を演じた役者ロバート・ドーナットはオスカーを受賞したそうだが、確かに演技もメイキャップも素晴らしいデキであった。

もともと魅力的なキャラクターである学者肌の教師像と、もともと哀愁を伴う老大国の魅力が重なって、実に味わいのある作品になった。ただし、味わいは年代によってかなり変るものである。この作品の中の子供達は、今の子供よりずっと純真で、いかにも少年チックな表情をしている。不自然に感じる人も多いと思える。

この作品は家族で観ても、恋人といっしょに観てもよいと思うが、さすがに画面は古いし、テンポが遅く、全体的におとなしすぎて、あんまり感動できない人も多いと思う。もっと際立つようなテーマミュージックでもあれば、なんとか注意も引き付けられると思うのだが・・。

この年は「風と共に去りぬ」が作られた年なのに、オスカーを取れたのは確かにそれだけの演技があったからだと思える。特に年をとってからが素晴らしい。

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