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2008年11月12日

チャーリー・ウィルソンズ・ウォー(2007)

ー 言い訳かも -2007

トム・ハンクス演じるチャーリーは、もとは海軍士官だったが、今はテキサス州選出の下院議員。軍事関係の委員を務めている。チャーリーズ・エンジェルと呼ばれる美女集団を秘書に従え、プレイメイトやストリッパーとたわむれる優雅な独身貴族。

あるとき、アフガニスタンにソ連軍が軍事介入したことを知る。恋人の富豪の女性ジュリア・ロバーツから依頼されてアフガニスタン国境を視察した彼は、現地のゲリラ達を支援し、ソ連軍を追い詰める作戦に出る。

直接アメリカからの援助をすると大きな国際紛争を呼ぶので、イスラエルの武器商人、サウジの政治家、パキスタンの軍事政権、CIA、議会の大物達を味方につけて、数億ドルの予算をかけてソ連製の武器をゲリラたちに渡すことに成功する。その結果、ソ連軍の戦車やヘリに被害が続出、結局ソ連軍は撤退し、やがてソ連崩壊へとつながった。

チャーリー議員は、CIAからこっそり表彰される。その場には恋人のジュリア富豪も居て、投げキッスをかましたりしてる・・・

よくできた映画。娯楽作品としてのレベルは非常に高いと思った。家族で見ることができるように作られていた。セックスを匂わせるセリフは多かったが、上手く処理されていた。恋人といっしょに見るのも悪くはない。爆笑シーンはないが。

惜しむらくは、大きな障壁が現れて、それを乗り越えるという達成感が薄かった。せっかくだから、いやらしい記者かなんかに麻薬のことを調べられて窮地に陥り、すべての計画もオジャンになりかける、もしくは反対派議員に脅迫されるなどの描き方が望ましかったのでは?

なんでソ連はアフガニスタンみたいな小国に大量の軍隊を派遣してしまったのかという謎だが、まず1979年のイラン革命が、ソ連の首脳部の危機意識をもたらし、親ソ連政権を周辺の国で維持させるためには軍事行動が必要だという結論になったのだと推測する。軍事行動は大量の兵力で一気にやっちまったほうが、後々の維持費が少なくて済むので効率的だというので、短期決戦のつもりで介入したんだろう。

実際には、ゲリラに対するアメリカやパキスタンなどの軍事援助を呼ぶことになって、とんでもない長期戦になってしまったが、開戦の当時、テレビで評論家が「アフガニスタンは、山々に囲まれた砂漠のような土地で、戦車で攻撃してもらちがあかない、きっとゲリラ戦に悩まされるでしょう。」とコメントしていた通りになった。

当時の私には、ソ連があんな世界の最貧国を攻撃する理由が解らなかった。イスラム政権ができても、別に大きなことではないのではないか?どうせ海外からの援助がなければ、ソ連にとって大きな脅威にはなりえない国である。イスラム国家すべてが反ソ連になるなら困るが、それは現実的ではない。ソ連にとっては、ほってていい国ではないのか?と考えていた。

アメリカがムジャヒディーン達を援助したことは、やがて同時多発テロの実行犯達を育てる結果になったので、この映画でもラスト近くで主人公が学校を建てさせるように運動する場面があるが、学校くらいでなんとかなるようなものでもないだろう。経済、軍事、教育すべてが上手く機能しないと、イスラム原理主義に国を乗っ取られてしまうことは予想できる。

おそらく、チャーリー議員たちは、それでもいいと思ったのではないか?まさか、それがアメリカに害を及ぼすとは考えつかなかったのだと思う。普通そうだろう。もしかすると、学校を・・・のシーンは、その後のことへの単なる言い訳ではないか?本当にどれくらい熱心にアフガニスタンの復興に尽力したのかも解らない。

原理主義者がアメリカをテロ攻撃することは、私も全く予想していなかった。ありえない行動に写った。原理主義者の心情は理解できない。私達の場合も、目に見える軍隊が攻めてきたら反感を持つだろう。現地で敵軍の兵士を誘拐して脅迫することも解る。でも、遠い彼方のアメリカのビルを攻撃する、そんな感覚は解らない。一般市民を殺すことにも躊躇してしまう。彼らは基本的に、目には目をの精神が残っているのだろうか?

同時多発テロの予測ができなかったことに対しては、議員は批判されても仕方ないような気はする。本来は、冷戦に勝利する可能性を追求したことで評価されてしかるべきだろう。その後の展開まで考えて介入しなかったら、それは考えすぎだろう。後のことは、チャーリー議員以外の人達、特にCIAの連中が担当するべき仕事である。テロを計画していそうな情報を察知し、未然に防ぐことが彼らの任務だったはずである。

映画の視点は、乱暴で残虐なソ連軍が、ヘリで住民を虐殺するのをアメリカが黙視できなくなって介入したような描き方であった。でも、共産主義に反対している種族にお仕置きをする必要に迫られたソ連軍にとっては、大事な作戦だったとも言える。おとなしく自分たちの言うことを聞けば、そこそこの生活水準まで援助してあげる、なのになんで反抗するんだ?ってな考えだったのかも。

ヘリで住民を殺す映像は、今の映像技術ならベトナムの戦場に加工して、そのまま使えるだろう。背景をジャングルに替えて、住民の服装もワンクリックで変化させれば、そのままアメリカがやったことに置き換えられる。どっちも正当化できない。

子供の手を吹き飛ばす目的で作られたという地雷だが、本当は工学的な理由でデザインされた外見が珍しく、それに子供が興味を持っただけで、子供だけを狙う意図はなかったという人もいる。ベトナムでは枯葉剤やクラスター爆弾、似たように殺傷能力を上げた銃弾を使っていたアメリカ軍は、当然子供や老人にも影響があることを知らなかったはずはなく、あんな描き方をする資格もないだろう。

戦場では子供も大人もない、動くものはすべて殺されるくらいの緊迫が当然で、戦争自体が最悪なんである。ソ連軍を容認はできないが・・。

チャーリーを援助する富豪の女性も特異な存在であった。実際にあんな女がいるのだろうか?テキサス辺りの石油成金は、とんでもない額の財産を持っているらしいが、いかにキリスト教に帰依していようと、いかに共産主義が嫌いであろうと、あんなロビー活動をするのだろうか?我々の感覚では、金持ちはさらに金を儲けることか、節税の対策にしか頭を働かせないようなイメージがある。

古代から残る‘寄付’という感覚、積極的に社会参加する姿勢が、日本ではあまりない。

フィリップ・シーモア・ホフマン演じるCIA要員の個性は強烈だった。セリフも激しい。彼がサングラスをかけていたことは正解だった。ミッション・インポッシブルでの彼は、デブで気持ち悪い変った悪役の印象しかない。目を隠すと存在感が出る個性である。今回の脇役の中で、彼の存在感はバツグンだった。

セリフが全体に良かった。シャレていて、ブラックジョークを漂わせ、嫌悪感、好意などを上手く表現していた。激しい言葉を使って、感情や個性を一瞬にして整理した形で観客に訴えることができている。ストリッパー達から、女性秘書役のエイミー・アダムス、議員達に至るまで、高度に整理された明快なキャラクターを演じていた。

青臭いところがなく、プロの脚本家が作ったものだと感じた。セリフと単純明快な役者達の表情は、この映画のレベルの高さを示している。監督のマイク・ニコルズはエンターテインメントを忘れていない。あまり複雑に表現すると、話が長くなってしまう。

映画全体もコメディタッチにしたセンスが素晴らしい。こんな作り方しかなかったと思う。映画の本としては、この後の多発テロの責任の問題があるので、ちょっと手を出しにくい題材であると思う。本当は純粋な軍事オタクで極右の政治家かも知れないチャーリーを、いいかげんな男として登場させることで、愉快な冒険映画風に作ることに成功している。テロの記憶が薄れてきた頃には、この作品はセンスのいい冒険コメディとして再評価されるかも知れない。

今は、とにかく後味が良くない部分を残してしまう。「あいつのせいで、同時多発テロがおこったのよ!とんでもない失敗作戦だったわね!」と、思う人は少なくないはず。

 

 

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