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2008年6月20日

アポロ13(1995)

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- ギャグがお呼びでねえ世界   -

ロン・ハワード監督の作品の中で最も最近観たのは「ダヴィンチ・コード」だったが、あれは失敗だった。各々のシーンはそんなに悪くないし、映像も美しく、小説はベストセラーで大変な話題になったくらいなので、ストーリーにも問題ないはずなのに、何か歯車が狂った印象を受けた。

ところが、同じ監督のこの作品は実に素晴らしい。盛り上るべくして盛り上がり、緊迫すべくして緊迫する、ほとんど狙い通りにバッチリはまった感じがする。主演もトム・ハンクスで同じなのに、これは何でだ?

脇役は、こっちのほうがそろっていたかも知れない。NASAの管制局のチーフを演じるエド・ハリスと、風疹の疑いのために船に乗れなかったゲイリー・シニーズは、存在するだけで訴える力があった。彼らが演じると、オーバーな演技でも笑って済ませられないような緊迫感を作る。

主演はトム・ハンクス以外の役者でも良かったと思う。それなりの存在感さえあれば良い。しかし、ケビン・ベーコンやエド・ハリスなど、他の役は代役では印象が違ってくる。配役が素晴らしかった。

これは大事なことである。どんなに優れた意見でも、話しているのが仮に志村けんか間寛平だとすると、何かのギャグかな?と考えて、笑っていけないことでも噴き出したくなる。「ダヴィンチ・コード」の場合は、「アメリ」の女優が深刻な顔をして逃げているのを見て、常に違和感を感じていた。配役、その役者のイメージは大事だと思う。

作品にもどるが、この映画の題材になったアポロ13号の失敗は、実に驚くべき話だ。普通なら宇宙空間で酸素タンクが爆発したら、そのままバラバラになって終わりのはずだが、おそらくタンクが破裂した時のことも計算に入れて、宇宙船本体が操縦可能な状態で残るように設計されてたことが不幸中の幸いだったのだろう。

さらに、事故の後の対処の仕方の数々には恐れ入る。理論に優れているだけでなく、様々な情報を収集し、ベストを尽くす気力と能力に脱帽する。換気扇を即席で組み立てるなんて、遊び半分なら可能だが、命がかかった状況では難しい。

実際の事故と映画の状況では、多少の違いがあるそうだ。事故に対しての対処法は、優秀なスタッフによって、あっという間に解決策が見出され、一発の実験で成功したとか、クルーの間でケンカなどもなく、皆が黙々と対処するので精一杯だったと書かれていた。

この映画を見ながら、ICUで患者を診療している時のことを思いだした。

映画のように世界的に注目されるような場面ではないが、救急患者を受け入れた時は、一歩間違えれば殺人になりかねない緊迫した状況もある。私は内科なので、せいぜい呼吸や心臓が止まったか、吐血下血の患者くらいしか診ないが、それでも充分に重症であるから、判断が適切で処置が有効に働いた時は、自分に拍手喝さいしてやりたくなる。

ある患者さんで、救急隊も家族もスタッフも、皆が皆こいつは仕様がない酔っ払いだと言っている中で、一人「もしかして農薬中毒じゃないか?」と、気がついたことがあったが、あれはスマッシュヒットだった。

心不全か喘息か簡単に判断できないが、とにかく息が苦しそう。もしくはお腹が痛いと言ってきたが、どうも痛いのは胸みたいで、心筋梗塞もあやしい。風邪をひいたと言っているけど、どう見ても癌が隠れている印象。こういった患者さんの場合は、うまく病態を把握できるかどうかが、その後の経過を決めてしまう。

間違えれば、直ちに訴訟が待っている。緊迫することは同じである。

もしこの緊迫した場面で、志村けんとそっくりの男から、「あなたは心筋梗塞です。」と言っても、やはりギャグにしか聞こえないだろう。どこかにカメラがあるに違いないと、きょろきょろされるだろう。「君なんか、お呼びじゃないよ!君は誰だ!」「そーです、ワタスが変なお医者さんです。あっ変なお医者さん♪」と、踊り始めるのかなと期待されてしまう。

この映画では、それは全くなかった。ギャグの入りこむチャンスはない作品だった。色気もなかった。最後まで緊迫感が維持され、最後に感動的な成功が待っていた。人間の努力と工夫に感動できる、すばらしい作品だった。

途中で無重力のはずなのに、そうでない変なシーンがあったが、ほとんどは上手く撮影されていた。

家族でも恋人とでも、誰とでも見れる、かなりの秀作だと思う。

 

 

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