映画評

  • 当劇場は劇場主のための映画館です。訪問者を期待しておりません。内容の客観性、正確性は保障できません。でも、真摯な批評を目指します。

劇場主


Conflict of Interest

  • 特にありません。

おことわり

  • 当劇場は誹謗中傷を目的としておりません。もし権利を侵害されたと感じられた方は、申し訳ありませんが管理会社や公的機関に御相談ください。

« スピーシーズ(1995) | トップページ | パンズ・ラビリンス(2006) »

2008年5月27日

アラビアのロレンス(1962)

Photo_2 - 007の宿命 - 

砂漠で命をかけて助けた男が、掟によって殺さねばならない運命の人だったとは!主人公の表情がゆがむ・・。

間違いなく傑作であった。ちょっと長すぎる点は否めないが、壮大なスケールを感じることができて、映画の醍醐味を味わうには必要な長さだったのかも知れない。家族で観ることができる映画だが、ちょっと重過ぎる印象がする。年末年始の、ゆっくりした時間に重厚な作品を観たい時があるが、あんな時には最高だろう。

印象的なのは、砂漠の向こうからオマー・シャリフが登場する場面。こちらから見ていると、蜃気楼のような姿が徐々に明らかになるのを長まわしで撮影している。本当はなんでもない登場シーンのはずが、凄い出会いになって印象が全く変った。

砂漠を横断して、アカバ要塞を攻撃せんとするときに、ロレンスが手で合図をする瞬間、そして一気に要塞になだれ込むシーン。この映画のハイライトであった。

後半はイギリスの戦略によって彼とアラブ諸国の立場が悪くなり、無力感を味わうシーンが多くなるため、我々としては退屈な場面が多くなる。やはり、ロレンスは砂漠にいないとダメである。無力なシーンは、もっと省略しても良かったかも知れない。

演出の仕方、全体の話の順番、オチのつけ方などは、よく検討され計算されたオーソドックスなものだったが、それが古い名作を見る雰囲気につながっていた。イギリスの伝統に則って作られたような印象。そのまま舞台に使えそうな構成だった。(そもそも舞台用の脚本かも)

ロレンスの伝記を読んだことがある。実際のロレンスは小柄でがっしりした男だったと書かれていたはず。この映画の主演のピーター・オトゥールはシェークスピア劇向きの役者だから、実際とは全く違った配役であったことになる。しかし、後半の悩めるロレンスを演じるのには最適だった。下は本当のロレンスの写真らしい。

Photo_3

ロレンスが活躍した頃、イギリスは苦しい時期で、ヨーロッパの戦線ではドイツと塹壕での撃ち合いを続けて戦死者ばかりが増えていくという状況であったはず。彼の成功は大々的に宣伝され、一躍国民的ヒーローになったと思う。彼を悪く描くことはできなかったろう。

本当はバリバリの帝国主義者だったのか、映画や伝記の通りに時代を見越したアラブの友だったのか、本当のところは解らない。純粋にイギリスの利益のためにトルコ軍を攻撃しただけかも知れない。今で言うスパイに過ぎないのかも知れないが、それにしても活躍が派手だった。007以上だった。

当時のイギリスの歴史本も読んでみたが、どうすれば良かったのか解らない。ドイツがフランスを攻撃してもイギリス本国の安全ばかりを確保する方針だったら、おそらく国力をそぐような事態にはならなかったはずだが、ドイツへの敵対意識が強かったことと、フランスと条約を締結してしまっていたので、大陸に出て行かざるをえなかったのだろう。

記録では、西部戦線での戦死者は双方が毎年数十万人にのぼったそうだが、せめて戦死者が膨大にならないように戦い方を変えることはできなかったのだろうか?ドイツ軍の攻撃が激しすぎて、他に手がなかったのか?

当時のイギリスの首脳部は、不足する戦費を補う目的だろうと思うが、あるものはユダヤ人からの融資を得るためにイスラエル建国の約束をし、あるものはトルコを攻撃するためにアラブの独立を約束するという綱渡り的交渉をやっているから、戦後さぞ居心地が悪かったろうと想像する。イギリスでは、必ず理性的な意見をはく人がいるから、国のためにとはいえ裏切りは非難されたはずである。

彼も結局、アラブ諸国を裏切ったことになるので、堕ちたヒーローは消えるかのように、事故で死ぬしかなかったのかも知れない。007の宿命か。それにしても、美しい物語だった。

 

« スピーシーズ(1995) | トップページ | パンズ・ラビリンス(2006) »

無料ブログはココログ