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2007年10月19日

麦の穂をゆらす風(2006)

- 内ゲバの論理   -

なんて悲しいストーリーでしょうか。主題は愛やIRAの成り立ちなどと言うより、内ゲバだったと思います。

この作品のレベルは高く、実に良くできていたと思いますが、家族や恋人といっしょに観るべきだとは思いません。完全に娯楽の範囲を逸脱した映画ですから、観ても楽しくないし、愛の物語で泣けるわけでもありません。これは、基本的には一人で観たほうがいいと私は思います。この作品はカンヌ映画祭でグランプリを取ったそうですが、確かにカンヌに集まる芸術家達には、最もお勧めの作品でした。

純粋な性格の医学生が主人公でした。彼の仲間は、政治路線としては比較的穏健な派として活動するものも多くなりますが、主人公のほうは急進的で過激なIRAの活動家として、最初は英軍相手に戦い、やがて仲間だった連中の派閥とも対立することになります。

麦の穂をゆらす風というのは、アイルランド民謡のひとつの曲名だそうですが、性能の良いカメラで撮られた草原と丘陵が続く土地の美しさは、確かにこの土地を愛したくなるのも分るような気がしました。その中で、凄惨なリンチと戦争、テロリズムが繰り広げられて、風景との違いが印象に残りました。

急進派と穏健派の対立という構図は、太古の昔から飽きることなく繰り返されてきた人間のクセのようなもののようです。集団において中心となるためには、意見の内容や表現の仕方が斬新であったほうが良い場合があります。皆が不安感を抱いている時は、特にそうです。

そのような急進的で純粋な意見の持ち主は、より純粋さを目指して、ますます急進的にならないと自分も納得できないし、仲間の支持を維持できない傾向があります。純粋さは共感を生みます。理論的な正しさがないと求心力を維持できないから、極端に走ります。

この作品では、作戦会議や裁判の後などに、リアルな議論が繰り広げられます。リアルと私が感じるのは、つまり民族を問わず議論の基本的な内容が同じで、日本でも同じレベルの話し合いをやってるからでしょう。

「これを死守しないと、今までの努力が無駄になる。」vs「ここで妥協しないと、今までの努力が無駄になる。」  「いかなる犠牲を払っても、これを求めずにはおれない。」vs「あれだけ犠牲をはらって、これを求めた意味はあったのか?」 作品の中でもさかんに討論されていたのは、我々の日常の討論と仕方はいっしょです。

議論が正しいかどうかは、結局はどちらの見通しが正確かに因ってくるように思います。突き詰めて考えれば、強硬に攻めて譲歩を引き出せれば急進派が正しく、戦闘に突入して負ければ穏健派が正しかったということになります。正しい分析(対戦相手の戦闘能力、戦いを取り巻く世界情勢、自分達の団結力、戦闘能力)ができれば、おのずと対応は決まってくるはずですが・・・。それがなかなかできません。

最近のテロはアルカイダが中心ですが、つい最近までIRAの爆破テロは頻繁に起こっていました。今もくすぶっていると思います。目の前で肉親を殺されたら、今どれだけ友好的になろうと感情的に許せるはずはありません。

日本では、この作品のようなレベルで日本赤軍等の活動家を描いた作品はないと思います。リアルに描くのは、たぶん命がけの行為になるでしょう。集団の性格としては新撰組や旧日本軍も近いものがあると思いますが、日本ではどのドラマもリアルさに欠けます。視点も、ヒーローものが多いようです。 

 

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